社名の語源は「音」を意味する「SONUS(ソナス)」──蓄積された技術が「何に使えるか」の“考え方を考える”
仲山進也さん(以下、敬称略):戸村さんとは20年くらい前からの知り合いですけど、お互いに仕事で何をしているかは詳しく知らない(笑)。今回、プロフィール資料を送っていただいて「初めて知ったけど、見てもよくわからない」と思いました(笑)。トラリーマンの共通点に、“自己紹介が難しい”っていうのがあると思っていて。
戸村朝子さん(以下、敬称略):そうそう! 本当に自己紹介って苦手です。初対面の人に理解してもらうのは大体諦めています(笑)。社内のメンターに「1行で表現してみろ」って言われてこれまでの軌跡を棚卸しして出てきた言葉は「ゲームチェンジャー」。道がない場所にポッと置かれて、360度どこに進むのも自由な状態で「どっちに行くべきか」と示す役割をいただいている。常に“獣道”を作ってきた感覚です。
仲山:確かに「獣道作ってる感」は感じてました。今現在の仕事の役割としては?
戸村:ここ4年ほどは、ソニーの新規開拓分野に復帰して、新しい土俵を作る仕事ですね。ごく最近の仕事としては、社内の研究部門が長年開発していた空間音響の技術を、576個ものスピーカーを使って、表現開拓に意欲的なアーティストの方々と組んで制作した「音響回廊 オデッセイ」という15m長の大規模音響インスタレーションを開発しました。音に触られるような不思議な体験で。
戸村:ソニーは社名の語源のひとつが「音」を意味する「SONUS(ソナス)」というラテン語に由来するだけあって、音響技術の蓄積がものすごくあるんです。ただ、ラボの中だけに技術が閉じこもってしまったままだと、世の中にどういうふうに役立って、どう人と関わり合えるのかがわかりづらいんですよね。音や光の表現でどこまでできるのかを世の中に示す時には、やっぱり、それを自由に操ることができる発想を持つ人と組んだ方がいいと思ったので、アーティストとソニーのエンジニアとで組んで、これまでにないような音が主役の没入体験を追求したんです。
今年1月のソニーがLAで開催した音楽イベントや、3月のSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)で発表して、その技術を応用した製品発売の発表時期とも重なって、多くの方にご体験いただき、「なんだ、これは!?」といった反響に手応えを感じることができました。
仲山:「社名の語源」から仕事のハナシが始まるような働き方、大好物です。名刺にある「UX企画部コンテンツ開発課」というのは?
戸村:この部署が何をやっているところかというと、新しい表現方法の進化の中で、先端技術(ハード)をコンテンツや体験(ソフト)としてどう実現していくか、テクノロジー、クリエイティブ、ビジネスの領域を踏まえながら、新しい表現や用途を創りだしていくドライバーの役割ですね。ソニーは映像や音を通じて視覚や聴覚の表現上の新しい技術を提供してきた歴史がある中で、お客様にいかに楽しんでいただけるかというコンテンツの力を高めることはやはり重要で。
ただ、新しい技術が出てきた時点では、その技術を活かしたコンテンツを作れる人は世の中にまだほぼいないんです。その時に、真っ先に飛び込んで作ってみるファーストペンギンの役回り。「先端コンテンツ開発」って自分たちでは言っているんですけどね。研究や開発現場にあったおもしろい技術を、世の中に出すとしたらどういう表現になるのか。
どういう用途に使えるのかを事業性も含めて想像しながら、体験のプロトタイプを積み重ねる仕事。半分は研究開発の一環なので、外には出せないコンテンツも担当しています。
仲山:「この技術って、何に使えるんだろうね?」を考える係ってことですね。
戸村:「何に使えるかの“考え方を考える”」係ですね。