未来予測から事業予測へと展開し「新しいビジョン」を創出
カスタマージャーニーに基づく課題をもとに、より良い体験をサービスとして提供する。前述のマンションの事例の場合はビジョンがはっきりしており、それに基づいて組み立て、考えるものだったが、近年はビジョンそのものを作り直すことや、未来の社会においても生き残るための新しい事業を開発したい、というケースも増えてきているという。
かつてのビジョン開発というと、コーポレートスローガンなどの“言葉だけ”の取り組みも少なくなかった。しかし、具体的にサービスや事業と紐付いていなければ、その言葉が目指す方向へと進んでいくことはできない。
たとえば、ある大手食品メーカーからは「2020年までの中期経営計画はあるが、それ以降の2030年、2040年に生き残れるか不安」という相談があったという。確かに現在の商品には力があり、来年再来年であれば「良い商品」と評価されて売上が上がるかもしれない。しかし、長期的な視点からは、10年後、20年後の日本、生活を描き、そのどこにビジネスチャンスがあるのか、目指す会社の姿があるのかを考え、そこから逆算して具体的な直近のアクションまで落としていく必要がある。
加形氏は、こうした未来像を想定するための方法として、東京大学先端科学技術センターの小泉秀樹教授らと取り組む「共創イノベーションラボ」や、未来の社会トレンドを「人口・世帯」「社会・経済」「地球・環境」「科学・技術」の4領域/55テーマに分けて網羅的に予想し、電通、電通デジタルが作成した未来予測ツール「電通未来曼荼羅」などを紹介。それらをもとに「SEPTEmber / 5Forces」というツールを用いたリサーチやワークショップを交えて、未来に起こりうる100項目を予測し、事業とロジカルに紐づけた100ページのブックレット「社会・生活者変化仮説集」にまとめたという。
なお先出の食品メーカーの場合は、コアの事業である「食」のバリューチェーンを中心に「働き方の未来」「暮らしの未来」という消費者のライフスタイル変化の領域まで未来予測の領域を広げ、イラストによってイメージしやすいものとしている。そしてさらに、未来予測から未来のありたい姿、考案した新規事業へと紐づけたものを「未来事業コンパス」としてまとめ、グループを横断した全社体制で、新しい事業づくりのために推進していけるような成果物を制作した。
加形氏は「2030年の未来予測に紐付いた事業となれば、どうしても一見不可能なものに見えるため、『10年間寝かしておこうか』ということになりがちです。そこをあえて逆算し、『いまできることは何か』『どの部署が担うべきか』まで考え、来月からできるアクションプランにまで落とし込むことが大切です」と語る。
そして、最後のステップとして、既存事業から発想した新規事業との調整を図ることも行うという。