SPACE10の責任者が語る、企業内ラボの「在り方」と「食とデジタル・ファブリケーション」

SPACE10 in 100BANCH イベントレポート Vol.1

 IKEAの社員は誰も常駐しておらず、一企業の枠を超えて、未来の人と社会を見据えたプロジェクトを生み出すことに成功している異色のラボが「SPACE10」である。
 7月末、持続的にイノベーションが起き続ける「生態系」を研究(Think)しデザイン(Do)する、シンク・ドゥ・タンクの株式会社リ・パブリックがSPACE10の共同創業者であるサイモン・キャスパーセン氏、カーベ・プール氏を招き、渋谷にある100BANCHでイベントを行った。「サーキュラー・エコノミー」「オープン・イノベーション」「社会実験」の3つの軸で語られたイベントの内容を2回に分けて報告する。前半は、キャスパーセン氏が語った、食とデジタル・ファブリケーションについてである。

[公開日]

[講演者] サイモン・キャスパーセン [取材・構成] フェリックス清香 [写] 和久田 知博 [協力] 市川 文子 白井 瞭 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 事業開発 テクノロジー サーキュラー・エコノミー SPACE10 フューチャーリビングラボ

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「節水」という課題から生まれた“昆虫ミートボール” ──持続可能でない食料生産の課題を解決する

 北欧の大型家具店舗のIKEAだが、店舗に行くごとにレストランに行くという人も多いだろう。IKEAのレストランでは、ミートボールが人気だ。そのIKEAが出資するイノベーションラボ・SPACE10で、昆虫でできたミートボールを開発していると聞くと、ぎょっとするだろうか。

THE CRISPY BUG BALL写真出典:https://space10.io/tomorrows-meatball/

 SPACE10は昆虫(ミールワーム)を使用したミートボールだけではなく、スピルリナという藻類を使ったパンを使った肉なしホットドッグやチップスなども考案。スピルリナは非常に成長速度が早く、環境にダメージを与えずに育てることができ、たんぱく質を含むさまざまな栄養素が豊富だとされている。錠剤やスムージーなども作られており、目新しい代替食ではない。

タイトル写真出典:https://space10.io/algae-dome/

 しかし今まではあまりおいしいと言えるものではなかった。SPACE10はこういった代替食を「たとえ持続可能な食材であっても、食事はおいしくなければいけない」と、世界的に有名なレストランNOMAなどとともに研究を続けているのだ。

 SPACE10はデンマークに拠点を構えているが、施設内に「ローカルフード・ラボ」という食に関するラボを持ち、そこで食に関する様々な実験を行っている。このラボは、「食を改善しよう」というモチベーションから生まれたわけではない。

LOCAL FOOD lab写真出典:https://space10.io/labs/local-food/

 きっかけは、学生たちと持続可能な生活を考えるプロジェクトを行い、ある学生が節水を促進するシャワーヘッドを持ってきたことだった。興味深いアイデアだったが、突き詰めて調べているうちにハンバーガー1個を生産するためには2,000リッターの水が必要だということもわかってきた。2,000リッターの水は数ヶ月分のシャワーに相当する。肉牛を育てるには、非常にたくさんの水を必要とするのだ。であれば、貴重なリラックスタイムであるシャワーの時間を削減して節水するよりもできることはある。

 国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organisation、FAO)は世界人口の増加に伴い、2050年までに世界全体の食料生産を70%増加させる必要があると報告している。一方でハンバーガーの一例を見てもわかるように、現在の食料生産の方法は、持続可能ではないことばかりである。こういった複合的な問題意識から、SPACE10では食に関するさまざまな実験を行っている。

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