絵を観て感じたことをいかに言語化するかが、ひとつのチャレンジ
日本の近現代の名作を中心に国内最大級のコレクションを誇る東京国立近代美術館。ここで山口氏がワークショップを行うのは3度目だ。同館は都心のビジネスエリアに近く、金曜・土曜は夜まで開館しているが、ビジネスパーソンの利用が盛んとは言えない。働く人にもっとアートを楽しんでほしい、という美術館側の相談を受けて始まった試みだ。
その日に集まった参加者は、男女合わせて9名。まずは会議室で互いの自己紹介を行った。
それぞれの所属する業種はメーカー、人材、IT、広告、医療など様々で、学校でグラフィックデザインを学んだ人、アートディレクションを仕事にしていた人などアートとの距離感が近い人もいれば、仕事相手から「美意識を持ってほしい」と言われたという経験を持つ人もいた。しかし誰もが、大なり小なり「アートに対する感性はビジネスにおいても重要なのではないか」という思いを、直感として抱いているようだった。
いよいよ展示室に向かう前に、山口氏からは以下の「グランド・ルール」が伝えられた。
ルール1:キャプションを読まない
作品の前に連れて行かれた時、思わずキャプションを読みたくなると思います。でも、なるべく読まないで、作品そのものに向き合ってください。
ルール2:心の中に沸き起こったことをそのまま口に出す
「ここで何と言うべきか」と頭で考える必要はありません。感じたことをなるべくそのまま、精密に言葉にしてください。
気持ち悪い、◯◯みたい、変な顔……、なんでも良いのです。感じ方の多様性を感じるということが、プログラムの中でもとても大事なところなのです。「そのような感じ方はおかしい」などと否定されることは絶対にありません。正解はなく、あらゆる見方や解釈が肯定されるのです。
「売上が上がったとか、コストが下がった」といったことは言語化しやすいが、絵を見て感じることを言葉にするのはとても難しい。山口氏は「それがこのワークショップにおけるひとつのチャレンジだ」と語った後、参加者を1つ目の作品の前に導いた。