パルコ林氏のデジタル観は「10年後の店舗のために今のうちに失敗しておく」
最初のパネルディスカッションでは、ビューティー関連のモバイルアプリを運営するパーフェクト株式会社の磯崎順信氏、ビューティアイテムのセレクトショップ「フルーツギャザリング」を運営するエフ・ジー・ジェイ株式会社の出合寛幸氏、ショッピングセンター「PARCO」の開発・運営を行う株式会社パルコの林直孝氏、が登壇した。また、モデレーターは合同会社pilot boatの納富隼平氏が務めた。
納富:パルコさんはビューティー、ファッションの分野で、様々なテクノロジーを盛り込んで取り組まれています。そこについて伺ってもいいですか。
林:私は店舗のデジタル化を担当しています。IoT、VR/AR、RFID(電波を用いた、ICタグの非接触読み取り)といったテクノロジーが出てきています。パルコは小売業ではなく不動産業なので、それらのテクノロジーを取り入れてデータを集め、テナントとして出店している店舗のスタッフが働きやすいようにするためにデジタル化を進めています。
納富:伊勢丹新宿店やパルコではテクノロジーに力を入れていて、阪急はあまり取り入れていない印象がありますがいかがでしょうか。また、百貨店がテクノロジーを取り入れていることに関して、出店する店舗側としてはどうお考えでしょうか。
出合:パルコさん、特に渋谷店では、昔からデジタルに限らず新しいチャレンジをしている印象はあります。かつて「オムニチャネル」という言葉が流行ったときや、コーディネートサービスのWEARが出てきたとき、ほとんどのデベロッパーが反対していましたよね。その中で挑戦していくパルコさんは柔軟な価値観をお持ちだと思いました。
百貨店では、阪急がデジタルを取り入れていないわけではありません。阪急は「楽しい購入体験」を提供することを一番大切にしています。世代・性別を問わない「楽しい購入体験」を用意するためなら、阪急はデジタルもテクノロジーも取り入れていくはずです。
磯崎:リテール業界全体で見ても、パルコさんのデジタルへの取り組みは、突出しているという印象があります。例えば、『Microsoft HoloLens』を使ったMR(Mixed Reality・複合現実)での疑似ショッピング体験を作っていますよね。ソリューションカンパニーではなく、リテール企業でここまで作り上げているのはパルコさんだけです。
林:世界的なテクノロジーの祭典「SXSW2018」で、2020年の購入体験を疑似体験してもらう展示をしました。ヘッドマウントディスプレイを装着し、バーチャルで服を選び購入できるようにしています。
磯崎:ちなみに、どうすれば一般的なユーザーがこれを店頭で使えるようになるのでしょうか。
林:渋谷パルコが2019年に再オープンするのですが、その時点でもまだ一般的なユーザーには受け入れられないと思います。ただ、2008年にiPhoneが発売された当時、10年後の現在のように普及していることが想像できなかったと思います。技術の進歩は早いので、MRグラスについては、今はまだまだですが、iPhone以上のスピードで広まるようになると思います。
なので、我々はUIやUXについて今のうちに挑戦し、たくさん失敗しておきたいと考えています。渋谷という街は特殊な環境で、IT企業が多く集まっており、新しいデバイスを持っている人も多くいます。それらの人がMRグラスを持った時、購入体験を提供できればと思っています。