「共有知識」を含む4種類の知識を融合させて考える
なぜ「厚み」が生まれるのか。なぜ厚いデータが重要なのか。この疑問を解明するために、4種類の知識に光を当てたい。
1.客観的知識:客観的知識は、自然科学の基盤である。「2+2が4であることを知っている」「このレンガの重さが3ポンドであることを知っている」。この手の知識には、本当の意味での視点や物の見方はない。
2.主観的知識:主観的知識は個人的な見解や感覚の世界といえる。認知心理学の研究対象となる知識本体、すなわち内面生活の表れである。自分自身に関することは、誰もが知識として尊重している。
3.共有知識:三つめの知識は、公共の文化的な知識である。言い換えれば、共有された人間の経験の領域である。例えば、ユダヤ人の経験とは何か、米国で働く女性であることはどのような意味を持つのか、急激に都市化が進む中国の都市部に移住する気持ちはどのようなものか、といった経験である。
ソロスらにとって、この第3の知識はあの大勝負をかける際の要になっていた。ドイツにおけるインフレの経験はもちろんのこと、戦後の通貨政策にその経験がいかにはっきり表れていたかも含め、しっかりとした「知識」が3人にはあったのだ。ロンドンの街並みの雰囲気だとか、利上げで英国が困窮している様子も、3人は「知識」として持っていた。
4.五感で得られる知識:さらに、ソロス率いる投資グループは、身体から得られる第四の知識にもアンテナを張っていた。ソロスは市場データを一種の意識の流れとして体感していて、市場データが自身の知覚に複雑に絡みついているのだ。実は、ソロスが大きな投資をするときは、背中の痛みか寝つきの悪さで決断するという。
ソロス率いるチームが絶妙な判断を下すことができたのは、上記の4タイプの知識すべてを見事に融合させたからなのだ。センスメイキングでは特に大切なことだが、彼らは四つの知識をどれも重視したのである。
与えられた文脈からなるべく多くの知識を抽出し、ベンチマークやモデル化はあくまでも道しるべ程度に利用したからこそ、1992年にソロスのチームは極めて多くの情報を手にすることができた。
これがゴールドマン・サックスとかモルガン・スタンレーといった銀行のスタッフだったら、頭脳明晰で、非の打ちどころもないほど立派な学歴の数学者や物理学者が考案した数学モデルで分析していたに違いない。こういうモデルは、英財務大臣ノーマン・ラモント(1992年当時)の腹のうちなど数値化できないデータには、まったく歯が立たない。
SERENDIP編集部コメント
「4種類の知識」を意識することで、思いがけないアイデアが生まれるかもしれない。とくに自分があまり得意でない種類の知識をインプットしてみると、新鮮な刺激になるのではないだろうか。優れた洞察や意思決定に結びつく「センスメイキング」を本書で学び、個人でもチームでもぜひ試してみてほしい。
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『センスメイキング 本当に重要なものを見極める力』
目次
はしがき 思考の終焉
序.ヒューマン・ファクター
1.世界を理解する
2.シリコンバレーという心理状態
3.「個人」ではなく「文化」を
4.単なる「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を
5.「動物園」ではなく「サバンナ」を
6.「生産」ではなく「創造性」を
7.「GPS」ではなく「北極星」を
8.人は何のために存在するのか