労働研究から考える「新しい働き方」の問題点
金井 郁 准教授(以下、敬称略):人とのネットワークと産業や企業がどういう風に行動するかというのは私の関心分野でもあるので、重なるところがあるなと思って聞いていました。
宇田川:金井先生は労働経済論の研究をされていますが、昨今の「働き方改革」を考える上でも興味深いお話を聞けそうで楽しみです。まずはこれまでの研究内容を教えてください。
金井:ずっと女性労働に興味を持っていて、そこから圧倒的に女性が多い非正規労働、パートタイム労働の研究をするようになりました。最近は変わってきたのですが、90年代くらいまでは「労働研究」といえば男性の、正社員のことを研究対象にするということを意味しているような状況で、パートタイムや女性労働は周辺のものという扱いでした。
私が博士論文までにやってきたことは、その扱いを変え、パートタイム労働を日本の雇用システムの理論化のなかにきちんと位置付けるということです。日本の雇用システムは、男性の正社員の労働が中心にあって、その周辺にパートタイム労働が位置付けられているのではなく、ジェンダーと結びついたパートタイム労働があること自体が日本の雇用システムだと捉え直すための研究をしてきました。
そしてパートタイム労働の実証研究を積み重ねていく中で「雇用」という言葉が指すもの自体が非典型化、つまり今までの典型的なものから変わってきているということに気づきました。「雇用」というと、組織があってその組織と雇用契約を結んで、そこに毎日出社して、経営側の指揮命令によって働くという状態をイメージすることが多いですが、歴史的に見ると「雇用」という雇われて働く働き方は一般的ではなくて、独立して働く人が多かったわけです。そして今、「雇用」というものが指す典型的なものが、また自営業的なものに変わりつつあります。その変化を「ジェンダー軸」で考えています。
宇田川:会社に属していながらサラリーマンではなく、自営業という新しい働き方が出てきていますよね。金井先生は、生保レディの調査研究をされてきましたよね。これはどういう狙いがあるのですか。
金井:そういった働き方は最近注目されていますが、実は新しい働き方ではなく、戦前からあります。でも、「新しい働き方」といわれるものを考える上でも、役立つ研究になるのではと考えて、戦前からある生命保険営業職の調査研究をしています。