銀行内の学閥という「人のつながり」を研究する
宇田川:なぜ学閥に注目なさったのですか?
長田:学閥の成り立ちは古く、明治時代の旧帝大誕生の頃に遡ります。東京帝国大学ができ、その後に第一回目の高級官僚の任用試験(現在の国家公務員の採用試験)があったのですが、学士であれば試験が免除され、無試験で官僚に登用されるという制度でした。まだ東京帝国大学しかない時代で、早稲田や慶應も大学にはなっていないので、つまり東京帝国大学卒しか免除されないわけです。そういったなかで、早稲田はジャーナリズムの、慶應は財界の、といったように国家公務員以外のつながりを作ったという説があるのです。
一方、当時、銀行員は読み書き算盤ができれば誰でもなれる仕事で、高等教育を受けた人が働く場所ではなかった。ところが財閥が大きくなり国際的な取引をするようになると、次第に高等教育を受けた人が働くようになりました。三井銀行が最初に学閥を作るような動きをしたと言われていますが、三井銀行の組織改革を指揮していた人物(中上川 彦次郎:福沢諭吉の甥)が慶應卒だったから、採用時に慶應卒の人に有利になって、慶應閥ができたと言われいています。そして、護送船団方式で規制や保護を受けながら銀行業が発達していく中で、今度は東大を中心とする官僚とのつながりが重要になってくるため、東大閥が誕生してきたと考えられています。
ただ、1970年代ごろから徐々に護送船団方式の銀行行政が機能不全になっていくなかで、学閥になんらかの気持ちの悪さや無駄を感じていた銀行は、死に物狂いで経営改善をしなければいけないこともあり、バブル崩壊・1990年代末の金融危機を経て、無駄なネットワークを壊そうという意識が働いたのではないかと仮説を立てました。
宇田川:どういう調査結果が出たのですか?
長田:研究途中なのでまだ完璧には実証できていませんが、銀行のボードメンバーのネットワークは壊れるという結果は出てきます。ただし、それをもって公的資金注入が効率化につながったとは言い切れません。以前に行った研究では、公的資金注入を受けた銀行は、けっこうズルをしていたという結果も出ています。
公的資金注入を受ける際、銀行は人員を減らすように言われます。しかしその基準が曖昧で、銀行単体ベースの目標設定なのです。そのため銀行は実際には人員を削減せずに、子会社に異動させただけなのではないかという説がありました。それに対するエビデンスがなかったので、各行が公表している平均年齢をベースに確認していきました。結果、公的資金注入を受けた銀行は単体ベースでは平均年齢が若返るけれども、連結ベースでみると変わらないということがわかったんです。つまり、おじさんたちを異動させているだけで、金融庁が望んだような人材面での効率化は起こっていなかったことが示されました。*2
*2: https://www.degruyter.com/view/j/bejeap.2017.17.issue-2/bejeap-2016-0059/bejeap-2016-0059.xml
宇田川:おもしろいですね。日本の銀行は改革をしなければいけないと国家レベルでも言われていますし、銀行員の方々もおっしゃってはいますが、実際はどうかということですよね。今までの話は、現在の店舗を持つ銀行の話でしたが、銀行サービスについての研究もなさっているのですよね。
長田:はい。そうですね。94年にビル・ゲイツが「銀行サービスは絶対必要なものだけれど、銀行はなくてもいいものだ」といったのですが、それが実現するように世界は変わってきていますよね。今まで護送船団方式で、一方では守られ、一方では締め付けられてやってきた銀行が「お上のご機嫌伺い」的な行動をとってしまうのは理解ができるのですが、同じことを続けていたらもうダメだろうと研究を通して考えています。