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デザイン思考を実践するための『プレイブック』から、ユーザーニーズの見つけ方を解説

 デザイン思考をいかに実践するか。その大きな課題を解決してもらうべく書かれたのが、スタンフォード大学の機械工学デザイン科教授であるラリー・ライファー氏を始めとした専門家による『デザインシンキング・プレイブック』(翔泳社)だ。今回、本書からデザイン思考を活用するうえで要となるユーザーのニーズを発見する方法について紹介する。ピーターとプリヤというペルソナが登場し、彼らの課題に沿って方法論が解説されていく。

[公開日]

[編] 渡部 拓也

[タグ] デザイン思考

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登場人物(ペルソナ):ピーターとプリヤ

 ミュンヘン工科大学卒業後、ピーターは電気通信、IT、メディア、エンターテインメントなどの業界でいろいろな仕事を経験してきました。そして5年前、ミュンヘンからスイスへの移住を決意しました。スイスのロケーションと充実したインフラに惹かれてのことです。ここでピーターは未来の妻プリヤと出会い、結婚して2年になります。

 プリヤはチューリッヒにあるGoogleのコーポレートキャンパスで働いています。プリヤは残念ながら職務上、今どんな仕事に取り組んでいるのかを詳しく話すことができません。もし話ができればピーターは興味津々になるはずなのですが。

ピーターとプリヤ

 2人とも新しいテクノロジーはすぐに試したいタイプです。スマートウォッチでもAR(拡張現実)でも、さらにはシェアリングサービスでも、デジタル社会から生まれるものはなんでも試してみます。

 数週間前、ピーターは夢だったテスラの車を手に入れました。早く自動運転でドライブしながら景色を楽しみたいと思っています。イノベーション&コ・クリエーションマネージャーという新しい役職によって、ピーターも「クリエイティブ系」の仲間入りを果たしました。服装もスーツと革靴からコンバースのオールスターに変えました。

 現在まで、ピーターはデザインシンキングをさまざまな状況で活用してきました。このアプローチが、ある時は目標達成に大いに役立つこともあれば、うまくいかない時もあることを学習しました。経験豊富なデザインシンキング実践者にいくつかヒントをもらうことで、もっと仕事に活かしたいと思っています。

ユーザーのニーズを発見する

 プリヤは新しいイノベーションプロジェクトに携わっています。噂によれば、プリヤが働いている有名IT企業がシニアの健康というテーマに取り組むと言われています。このテーマはプリヤがほとんど知識のない分野であり、個人的にもまだ身近ではない話題でもあります。

 実際、プリヤは他にも多数のプロジェクトを抱えているので、シニアのニーズを考慮に入れる時間的余裕がほとんどありません。彼女の職場は20代半ばの人たちで埋め尽くされ、50歳を超えている人さえほとんどいません。チューリッヒにいる友人知人もみな30代で、両親もまだ現役でフルタイム勤務をしており、退職者の仲間入りはしていません。祖父母なら話を聞けたでしょうが、残念ながらすでに亡くなっています。

 プリヤは潜在的ユーザー(つまり、人々)と接触することがデザインシンキングを実践するには欠かせないことを知っています。

 プリヤにとってニーズ探しを省略するという選択肢はありえません。それはデザインシンキングのプロセスの1フェーズを丸ごと飛ばしてしまうことになるからです。理解と観察フェーズ、さらに視点の定義のフェーズは厳密に区別することはできないため、ニーズ探しを無視することは少なくとも3つのステップを省略することになります。

 こうしたステップのすべてに共通する重要な特性があります。ユーザーと直接接すること、つまりイノベーションによる商品またはサービスを今後定期的に利用する人のグループとの接触です。

 いかに検討を続けているからと言って、イノベーション開発のターゲットとなるすべての人たちのライフスタイルを理解していると思うのは幻想にすぎません。過去4年間にリリーがニーズ探しのエキスパートとして関わったすべてのプロジェクトを考えてみても、彼女は高齢者、視覚障害者、レズビアン、幼稚園児、不法移民でなければならなかったことになります。さらには、緩和ケア病棟に関するプロジェクトも実施しました。人生の最期の時を迎えた人たちの毎日の生活と病棟の手順のイノベーションに取り組んだのであり、死の床に就いたわけではありません。

 自分自身を振り返り、イノベーション開発の対象者を自分が必ずしも代表してはいないと知ることが大切です。もし、ごく例外的に自分が該当者である場合でも、自分のニーズを他の人に反映させる時には十分な注意が必要です。

 ピーターも、自分の席で何もしていない時に、商品の品質改善のための自分のアイデアを自問自答しています。誰かが日常生活で自分の商品を使っているところを最後に見たのはいつだった? 顧客が新たに発明された機能を必要だと感じているまさにその瞬間に顧客の隣に立っていたことはあるのか? ピーターが顧客に尋ねたからではなく(「あなたは~したいですか」)、顧客が自分でこの機能を探していたから、ということは?  このような瞬間によってユーザーの生活についての洞察が得られ、深く長期にわたるニーズがどこに隠れているのかを示してくれるのです。

 人々の日常生活を知らないということは、常に仮説を立て、それを基に決断をしていることを意味します。スイスには約800万人が住んでいます。現在チューリッヒに住むプリヤが、ある小さな村の住民がどのように暮らしているかを正確に知っていると主張した場合、彼女の知識は子供のころにインドで当時ほぼ同じ規模の村に住んでいた時の経験だけに基づいています。その経験は村の生活の特定の側面を知る手掛かりにはなりますが、今日のスイスの村の住民の大多数のニーズに対応する完璧なソリューションを開発することはできません。

 イノベーションはユーザーのニーズを自分のこととしてとらえ、ユーザーを徹底的に理解することによってのみ効果を発揮するのは当然のことです。ユーザーがいる場所に自分も立った時、特にユーザーの生活で改善しようとしている部分を目撃した時にそれは実現できます。

 本書がここで、それぞれの環境にいる人々を観察するツールをもっと紹介すると思ったなら大間違いです。そうしたツールは役には立ちますが、結局大切なのは1点に尽きます。つまり、どの仮説が頭の中で作り上げたものかを探し出し、それを意識することです。

顧客の身になって考える

 会社での日常業務では、イノベーションマネージャーが実際のニーズに基づいていないアイデアを基に仕事を進めるのはよくあることです。誰かの日常生活でうまくいっていない何かを解決し、具体的な付加価値を生むことはできないかと尋ねたら、ぽかんとした顔をされることが多いものです。

 そのような場合は、イノベーションマネージャーは何を見て何を聞けばいいのか分かっていないので、彼らを派遣しても無駄です。そのため多くの会社ではニーズ探しが行われず、時間と金の無駄だと思われてしまうのも無理はありません。

 従来型のマネジメントとイノベーションのコンサルタントの多くは、コンサルタント自身や自ら指導したマーケットリサーチ会社が行っていない、いわゆる顧客インタビューを重視しています。コンサルタントはこのインタビューから自分の見聞きしたことに一致し、自分の人生で培った現実にうまく当てはまるものだけを選び出します。そのため、ニーズ探しはプロジェクトの成功を妨げるとみなされてし まうことも少なくありません。

 ニーズ探しで純粋な好奇心を持つことに成功すれば、学んだことすべてが新たな、さらに人間中心のソリューションへと導いてくれることが分かります。

 ニーズ探しでは、今はまだうまくいかないこと、おそらく決してうまくいくことはないこと、あるいは非常に注意して見守る必要があることを認識して、最終的にイノベーションがニーズに合っていることを確認できます。

どうすればニーズ探しで思い込みから解放されるのか?

 思い込みや仮説に縛られずにすむための便利なトリックはいくつかあります。特に初めてニーズ探しをする時には、30分もかからない下記のエクササイズを強くお勧めします。このエクササイズでトリッキーな質問をする人がいればさらに効果的です。

 このメソッドの目的は、ニーズの仮定や仮説をどのように可視化することができ、重要な仮定の優先順位をどのように決めることができるかを示すことです。これによって出発点が生まれ、目的が明確で成功しやすいユーザーとのインタラクションを実現できます。

 出発点は、最初のシンプルなプロトタイプをすでに作成している、ということです。そのため、アイデア発想フェーズはここでいったん終わります。すでにユーザーのニーズに対する潜在的ソリューションを見つけているからです。「シニアの健康」プロジェクトでは、プリヤはソリューションへのアプローチとして運動というテーマを定めました。

1.アイデアを1文にまとめる

 例:座ってばかりのシニアに散歩を促す

 次にアイデアをビジュアル化します。

アイデアをビジュアル化

2.アイデアのニーズの仮説をまとめる

 ご存知のように、ニーズとは実際のモチベーションになるもので、今は現実ではない何かを可能にしたいという欲求(例:健康でいたい)、あるいは望まないものを捨てたいという欲求(例:減量)から生まれます。デザインシンキングでは、こうしたニーズを動詞で表します。ニーズはユーザーが「何を」達成したいのかを表しています。ここは意識的に、ソリューション中心の「どのように」を重視する思考を脇に置いておきましょう。

 ニーズの仮説を決めるには、最初に以下の質問を尋ねます。

  • このアイデアを通してユーザーは何を達成したいのか?
  • ユーザーがアイデアを採用するモチベーションは何か?
  • ユーザーがアイデアを採用することを妨げているのは何か?

 次のような回答が考えられます。

  1. 座ってばかりの人は、慢性疾患を予防するため(ニーズ)に運動したい(ニーズ)。
  2. 引退した人は定期的に運動する(ニーズ)ために必要な毎日の決まり事(トリガー)を持たない。
  3. シニアは孫と一緒に旅行へ行けるように健康でいたい(ニーズ)と思っている。
  4. シニアは若い人とジムで運動すると落ち着かない気持ちになる(精神状態/妨げる要因)。

 これらの仮説を1枚の付箋紙に1つずつ書きます。この付箋紙をステップ5のマップに貼り付けます。

3.重要な仮説を決める

 何より重要なのは、ニーズの仮説を数分間かけて振り返ることです。

 この振り返りフェーズで何に気付きましたか? 思いついたイノベーションによって基本的なニーズを満たそうとしていたかもしれません。そのニーズというのは、見事なまでの思い込みに基づいていることが多いのです。こうしたニーズを見直し、必要に応じて変えなければなりません。

 このエクササイズでは、潜在的ユーザーが実際に日常生活でこのようなイノベーションに対するニーズを抱えているのかどうかを見聞きせずに、アイデアの根本的な部分について頭を絞ることになります。

 友人の中からこのソリューションは優れていると思う仲間を何人か見つけているかもしれません。友人の両親や祖父母が日常生活でこうした問題を実際に抱えているとなればわくわくするでしょう。このステップでは、ユーザーにかなり接近します。と同時に、今はまだ仮説を扱っていることも意識しなければなりません。こうしたニーズが実際の日常生活に本当に存在するのかどうかはまだ見聞きしていないのです。

 こうしたニーズは見直しするしかありませんが、今回は仕事の同僚とではありません。こちらに好意的だったり、こちらの熱意に水を差したくないと思ったりするためにアイデアに好意的に反応してくれる身近な人ではない人々を観察してインタビューをしなければならないのです。

4.偶然の機会に備える

 たった今、ターゲットグループのユーザーにばったり出会ったら、何を尋ねますか? いつそんなチャンスが訪れてもいいように、相手から毎日の生活について聞き出すためどんな質問をすべきかを真剣に検討すべきです。たとえばプリヤは、日常生活を送っている引退した人と、平日にいつどこで会えるのかを考える必要があります(たとえば、ショッピング中、旅行中、電車で、バス停で)。幸いなことに、プリヤはわざわざ休暇をとる必要はありません。ニーズ探しを自分の日常生活に組み込めばいいのです。

ニーズ探しとは何なのか?

 アイデアを新しい角度から見るには、コンフォートゾーンを離れて人々に話しかけなければなりません。進んで新しいことを学習し、好奇心を持ち続けることで、知識を少しずつ豊かにすることが必要です。

5.最初に重要な仮説を見直す

 最も知識が少ないのはどの仮説か、アイデアにとって最も重要なのはどれかを自問する必要があります。こうした仮説を最初に見直すほうがよいのです。

 こうした仮説が日常生活に当てはまらない場合は、頭の中の架空の城の上にソリューションのアイデアを構築していたことになります。それも悪いことではありません。早いうちに気付けば、多くの資金と時間と労力を節約できるので、空いたリソースを次の大きな市場機会に活用できます。

 重要な仮説の見直しには四分割したマップを使います。「偶然」と「必然」、「知識あり」と「知識なし」を対比した図はこれまでにもたいへん役立っています。

四分割マップ

どうすればニーズ探しのインタビューがうまくいくか

 どんなインタビューも論理的な流れがあるはずです。インタビューの流れを事前に計画して、それをじっくり検討することをお勧めします。

 適切な準備をしていれば、落ち着いて臨むことができ、インタビューを受ける人からの信頼も得やすくなります。

 典型的なニーズ探しの会話は次のようなものです。

1.導入

 最初に自己紹介をし、依頼の理由とインタビューの流れを説明します。その中で、このインタビューには「正解」も「間違い」もないことを強調し、インタビューを記録する許可を得てください(ビデオ、写真、または音声録音)。大切なことは、回答者が心を開ける雰囲気を作ることです。回答者は、感謝されていると感じ、自分の知識と経験が価値あるものだと受け止められていると理解していなければなりません。

2.実際の開始

 インタビュー相手にも冒頭で自己紹介してもらい、今回の課題にどう関係しているのかを説明しておきます。インタビューは、実際のテーマに関する一般的な自由回答方式の質問から始めます。回答によって、テーマを拡大して明確化するための質問をして掘り下げます。重要なことは、質問をされた人が安心していること、こちらを信頼してくれることです。

3.関連付ける

 回答者がよく覚えている最近の事例を見つけましょう。この方法で、回答者をトピックと問題に近づけます。この事例については問題をすべて洗い出せず、重要な体験を聞き出せないかもしれないし、別の日まで待たなければならないかもしれません。引き続き信頼を築き、インタビューを受ける人が自分の回答が重要で適切であり、役に立っていると思えるようにします。思ったほど掘り下げられない時も、辛抱強くさらに体験やストーリーを尋ねましょう。

4.掘り下げる

 他の重要なトピックを掘り下げ、矛盾点を探します。可能であれば細部まで突き詰めましょう。これは物理的な事実にも感情的な事実にも当てはまります。隠されていた事柄が明るみに出た時に目標を達成したことになります。インタビューを受ける人がこちらを信頼すれば、心を開いて、通常のインタビューでは隠されたままになるような刺激的なストーリーやニーズを語ることができます。

5.振り返り

 一呼吸おいて、インタビューの締めくくりをしましょう。重要な知見について感謝を伝え、こちらの視点からメインとなるポイントをまとめます。インタビューを受けた人が重要な事柄をつけ足したり、矛盾点を指摘したり、重要な項目を強調したりすることもよくあります。この時点で、必要に応じて「なぜ」と尋ねてさらに掘り下げることも可能です。このフェーズでは、より一般的なレベルへと切り替えて、議論の対象となっている問題の説明や論理について議論してもよいでしょう。

6.まとめ

 まだ録音装置を止めないでください。最も興味を惹かれることが最後の最後に飛び出すことも多いので、締めくくりには十分な時間を確保しましょう。インタビューを受けてくれた方へ、話してくださったこと、時間を割いてくださったこと、こちらが得るものが多かったことについて再度お礼を伝えます。そちらから質問はないかと尋ねましょう。インタビューの後で、内容とアプローチの両面から最も重要な知見をまとめながら振り返ります。

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