独自の取り組みが“結果的”に「両利きの経営」となったAGC
講演会の後半は加藤氏から、新著にAGCが取り上げられることになった経緯が語られた。そもそものきっかけは、加藤氏が、MBA留学時代の恩師であるオライリー教授にAGCの取り組みを紹介したことだった。教授が強い関心を持ったことから、オライリー教授、シェーデ教授、加藤氏が共同で同社を取材し、スタンフォード大学経営大学院の教材となるケース・スタディを作成することになったのだ。新著のAGCに関する記述も、そのケース・スタディがベースになっている。
通常MBAのケース・スタディは、企業が直面したなんらかの経営課題に関して、経営者がどのような意思決定や行動をして乗り越えることに成功したか、あるいは失敗したかが描かれる。AGCのケースでも、同社の島村CEOが現職に指名された2014年10月時点の経営課題と、それ以降の組織変革が詳述されている。
加藤氏の説明によると、AGCは液晶ディスプレイが興隆を極めた2010年に過去最高益を記録したが、その後は新勢力の参入により収益が急激に落ちた。島村氏はその最終局面の2015年1月にCEOに就任して変革を行い、2019年度は減損処理による減収となったものの、それ以前の4期は連続で増益を実現した。これはまさに、氏が組織のカルチャーを変革した結果だという。
加藤氏は、ケース・スタディを作る上でポイントとなった点を3つ挙げた。1点目は、企業の存在目的を島村氏が自身の言葉で再定義したこと。2点目は、再定義した存在目的に合わせて事業戦略も組み替えたこと。3点目は、その戦略を実行できるように経営チーム自らが組織のカルチャー変革に取り組んだことだ。
組織コンサルタントとしてAGCの取り組みを間近に見ていた加藤氏は、同社が最初から「両利きの経営」を意識していたわけではないことに注意を促した。独自に考えてやってきたことが、結果的に「両利きの経営」に符号していた。そのことに、加藤氏は「日本企業が『両利きの経営』を通じて、組織を大きく進化をさせられる可能性を感じている」と期待を述べた。