組織における「知の探索」は、解釈の違いという“溝”を埋めること
──断片的な情報を無意識に集めた結果が意思決定だということ、複雑な問題へ対処する際に「情報が足りない」「どんな情報が必要かわからない」という状況があること、情報間のつながりを見出すことが「知の探索」であるというお話をお聞きしました。では、組織での課題に対して得られる示唆はどのようなものでしょうか。
宇田川:企業では部署や職位間でものごとに対する解釈の枠組みの違いがあり、その溝へ橋を架けていくことが組織における「知の探索」の実践だといえます。企業に限らず、今の社会にある多くの問題が、こういった解釈の枠組みの違いから生じる溝を放置しているために起こっているのです。
──具体的にはどんな問題が起こっているのでしょうか。
宇田川:上司と部下の関係を例にあげましょう。上司は部下を指導し、評価することが求められます。よって、上司は部下に従順さを求めることが多いでしょう。一方、部下は上司にリーダーシップや責任を求め、上司がその解釈の枠組みに沿わない言動をすると腹を立てます。つまり、互いに「上司たるもの/部下であるならば、こういう存在であるはず」という暗黙的な解釈の枠組みを前提に相手を捉えているのです。
──では、どのように対処していけばいいのでしょうか。
宇田川:まず問題と捉えていることを、「組織をもっとよくするために必要なもの」だと解釈してみると、いろいろな発見があります。まずは、その問題を根気強く観察してみましょう。その際に有効なのが、「問題に名前をつける」ことです。名前をつけると問題と人を切り離すことができて、問題について観察することができます。人と問題を切り離すことで、点ではなく、点と点を結んだ線として問題を観察できるようになるのです。
たとえばプロジェクトでミスが出たという場合、そのミスは組織をよくするための重要なアラートだと解釈します。その問題を起こした人ではなく問題に「うっかり君」でも何でもいいので、名前をつけて観察してみる。でも、その問題を人と切り離さないと、「その人が悪い」と個人の問題になってしまうのです。そうならないためにも、顕在化したいくつかの問題を解釈の枠組みをひろげる知の探索活動だと位置づける。一歩一歩ですが組織がよりよいものになっていきます。