「知の探索」の源流にある、意思決定の本質
──宇田川先生は「知の探索」を、組織での対話にもヒントを与えてくれる、ひろがりのある議論だと主張されていますね。
宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):「知の探索」は組織論研究において1970年代の終わりから徐々に注目されてきました。「知の探索」という言葉を最初に提唱したのはジェームズ・G・マーチで、この時代の組織論研究者たちが知の探索に関連する研究として「意思決定のゴミ箱モデル」を提示しました。
そのポイントは、“客観的で合理的な意思決定が行われることは、ほとんどない”ということです。意思決定は、ある要素を公式に入れて機械的に正しい解が導かれるようなものではなく、実際には、さまざまな要素や偶然が相まった結果できあがったものです。後から「あれはどう考えて決定したのですか?」と聞かれるから、客観的な説明をしているだけだというわけです。事前に結果への合理性を説明することはできない、というのです。これが「知の探索」の原型になった理論の1つです。
──「知の探索」の源流には、そのような考えがあったのですね。しかし、ビジネスパーソンなら的確な意思決定をしたいはずです。具体的には、どのような示唆が「知の探索」から得られるとお考えですか。
宇田川:多くのビジネスパーソンには、取り組む業務のなかで新たに起こる事象を理解したり、新しい事業アイデアを生み出したりする状況がありますよね。さきほどの意思決定のプロセスを前提にすれば、さまざまな断片的な出来事をどのように組み合わせていくか、新たな組み合わせの可能性を探索し続けることの重要性が浮かび上がります。
そして、“既存の解釈の枠組み“を一旦脇に置き、その外側にあるものをどうやって見ることができるか。外部の有識者が提示してくれる新規事業案、危機的状況を一瞬で解決してくれるソリューションなどを探すのではなく、まずは、社会や組織で起こっているさまざまな断片を観察することが、企業経営で起きている問題の解消の起点になることがわかります。