サービスデザインの誕生
「サービスデザイン」という言葉が使われるようになったのは、1990年代初頭となる。この頃、ドイツのKöln International School of Designにて、その後サービスデザインコミュニティの中心人物となるMichael ErlhoffとBirgit Mager(記事冒頭写真)の両教授によるサービスデザイン教育プログラムが開始された。また、同時期Politecnico di Milano(ミラノ工科大学)では、Ezio Manzini教授がサステナビリティの観点からサービスデザインの重要性を主張し、サービスデザインの学位を発行した。
当時、すでにサービスサイエンス、サービスマネジメントと呼ばれる分野は生まれており、研究が進められていた。こういった中で、Citibankの元副社長であったLynn Shostackが、1984年に発表した論文の中で、サービス設計のための手段として「サービスブループリント(Service Blueprint)」を提示した。サービスブループリントは、サービスの利用と提供のプロセスを、サービスを構成する要素の関係図として示したもので、サービスエビデンス(サービスを提供する際に利用者との接点となる物理的手段)から、バックヤードのオペレーションまでがまとめられている。
サービスブループリントは、従来の品質管理手法をもとに生まれているが、この、サービスを包括的にとらえる手法をユーザー観点にしていったものが「カスタマージャーニーマップ」であるといえる。
このようにサービスデザインとは、サービスサイエンスやサービスマネジメント領域に、デザイン思考や人間中心設計(HCD)的なアプローチ、サービスとプロダクトの融合などの観点を加えていった領域横断的なものとして発展を遂げていった。
その後、2000年代になりIDEO、Ziba等のデザインコンサルティングファームなどでサービスデザインプログラムの提供が始まり、「サービスデザイナー」という肩書きが使われ始めた。Livework、Engine、Fjordなどのサービスデザインを主力とする会社が立ち上がったのもこの頃となる。
2004年には、複数の学術機関とデザインコンサルティング会社などが中心となり、Service Design Network(SDN)という国際組織が発足した。SDNは、前述のKöln International School of DesignのBirgit Mager教授が代表を務め、事業会社と研究機関、そしてデザインコンサルティング会社とが参加し、Touchpointという機関誌を定期的に発行し、前回紹介したような国際会議 Service Design Global Conference(SDGC)を毎年開催している。
Service Design Networkは、世界各国での地域支部(Local Chapter)での活動に力を入れており、現在世界15地域にてオフィシャルなLocal Chapterが活動を行っている。筆者は、日本支部の代表を務めているが、支部での活動に加えて、支部間の活動なども盛んである。