新規事業の着想に不可欠な日常の“違和感”
──まずはこれまでの経歴を教えてください。
2004年にベーシックを立ち上げたのですが、それ以前に会社員として3社で勤務し、いずれも事業の立ち上げを任されてきました。ベーシックでも大小様々な事業を立ち上げており、上場企業を中心に10回ほど事業売却も経験しています。
──事業立ち上げで意識されていることはありますでしょうか。
マクロの視点とミクロの視点でそれぞれ意識していることがあります。
マクロでは、世の中のトレンドを自分なりに仮説を立てて考えることを意識しています。新たな情報に接したとき、仮に自分が知らない領域に関してであったとしても、「自分と関係があるとするとどういうことだろう」という視点で考えるようにすることで、未来のイメージが湧いてきたり、ニュースの読み方の感度が高まったりします。
ミクロでは、自分が見たものや聞いたものに対するちょっとした“違和感”を深掘りするようにしています。そうすることで、常識だと思っていたものが実は常識ではなく、ただの固定観念だったということに気づくこともあります。たとえば私たちがウエディングの事業を始めた2006年当時は、「これからはインターネットですべてが完結するようになる」と考えられており、リアルの場であるウエディングサロンが衰退の一途をたどっていました。「多くのユーザーにとって初めての経験のはずなのにインターネットで完結していいのか」という違和感から、インターネットとリアルの融合が重要なのではと考え、インターネットとサロンを組み合わせた事業を考えました。これは今では当たり前となっていますが、当時は異端な取り組みだと思われるものです。それでも実際にサービスを開始すると、ユーザーのインサイトを掴み、初年度に1,000組の成約を達成することができました。
──事業を創る上で原体験が大切だとされていますが、秋山さんは日常の疑問に着想を得て進めることが多いのでしょうか。
もちろん原体験があって始めた事業もありますが、私の場合は“問い”を立てて発想するケースが多いですね。新規事業で自分の原体験と重なるものに挑戦できればベストなのですが、会社のアセットを使わなければならなかったり、領域が限定されていたりすることもあります。その中で原体験と重なるのは稀なので、業界の常識を含めた日常のすべてに逆説的な“問い”を立てることが大切だと思いますね。
──どのような点に気をつけて“問い”を立てればよいのか教えてください。
他業界や国外も含め、先行しているものから学ぶことが大切です。「旧態依然とした業界がイノベーションによって大きく変わった」という話は枚挙にいとまがありません。それらを学び、自分の業界で起こりうるかをリアルに考えることが重要になるのです。もし自業界でまだイノベーションが起こっていなければそれはチャンスですし、起こっていたとすると、何を破壊したことで進んだのかを学ぶことができます。
また、多くの新規事業担当者が見落としがちな「ユーザー視点」に注目した方がいいかもしれません。ここでいうユーザー視点とは、体験によって生じる「人の心理の変化」を指します。イノベーションが起きたとき、その体験によって生じた消費行動や態度の変容は、他の領域にも影響することが多々あります。これは業界構造が変わったという話ではなく、一個人の体験が新たなニーズを喚起して新たな物事を生み出すということです。変化は自分の業界から始まるものだけではありません。「その経験をしたユーザーは何を思うのだろう」という意味でのユーザー視点を持つことで、他の業界で生じた変化の波が自分たちに押し寄せてくることを予想することはとても大事なことではないでしょうか。