アサヒグループHDが経営理念を再定義した理由
日置 圭介氏(ボストン コンサルティング グループ パートナー&アソシエイト・ディレクター、以下敬称略):御社は2018年末にグループの新しい理念「Asahi Group Philosophy(AGP)」を作られました。どのようなきっかけだったのでしょうか。
谷村 圭造氏(アサヒグループホールディングス株式会社 取締役 兼 執行役員 兼 CHRO、以下敬称略):一言でいえば、グローバル化です。2009年にオセアニアに参入して以来、2010年代に東南アジア、ヨーロッパ、中東欧へとビジネスを広げてきました。以前は国内事業で持続的成長を目指していたのですが、今は海外の社員が過半数になり、社外のステークホルダーからもグローバルで企業価値を向上していくことが期待されています。
そうなると、経営理念にも変化が求められます。以前の経営理念に問題があったとは思いません。しかし、ステークホルダーが変わっているのに、そのステークホルダーとコミュニケーションするための言葉がそのままでいいはずはない。経営の意志として再定義して示す必要があるという判断だったと、私は解釈しています。
日置:最近パーパスという言葉が注目を集めていますね。もともとしっかりとした経営理念というかたちで社内に浸透している原点思想をもっていらして、それを現代語訳するような形でパーパスを明文化するということなら意味があります。しかし、急にとってつけたようなパーパスを作って社員をしらけさせてしまう企業もあると感じています。御社は前者のパターンなのではないかと思いますが、どうでしょうか。
谷村:そうですね。特に「Our Values」として掲げている価値観は変わりません。例えば、「感動の共有」は以前から我々のキーワードでした。価値観は普遍的ですが、社会の変化に伴い、我々が果たすべき使命や存在価値というものも変化していくのだと思います。それを「Our Mission」として再定義したのです。
日置:以前から、経営理念がしっかり浸透していたことが土台となったわけですね。
谷村:はい。AGPを策定したときには、海外で伝わりやすい言葉の選び方や文章の作り方にこだわりました。その結果、もともと理念浸透の土台がある日本の社員は、「アサヒらしさはどこにいったの?」とか「前のグループ理念から何が引き継がれ、何が変わったの?」といった疑問を抱いたかもしれません。新しく仲間入りした海外の社員との間には、AGPの受け止め方にかなりのギャップがあったでしょう。しかし2年経って、両者ともAGPを自分ごととして見られるようになってきたように思います。