過去のやり方が通用しないことを受け入れることから「両利きの経営」がはじまる
加藤 雅則氏(株式会社アクション・デザイン 代表 エグゼクティブ・コーチ/組織コンサルタント、以下敬称略):腹巻さんが2020年10月に社長に就任されてから1年が経ちました。ノーリツは今年70周年を迎えられたわけですが、今の状況をどうご覧になっていますか?
腹巻 知氏(株式会社ノーリツ代表取締役社長、以下敬称略):実は、昨年の1月に創業者(太田敏郎氏)が亡くなりました。象徴的な経営者だったので、これはノーリツにとって大きな転機でした。
例えば、太田の時代からつくってきた潮流のひとつに、全国に代理店網を築いてきたということがあります。ものづくりでいえば、我々は早い時期からジャストインタイムの生産方式を取り入れてきました。このようなやり方が以前は強みでしたが、それだけに固執せず、状況に応じて臨機応変に対応する必要があります。太田が亡くなったということは、将来に向けて変わっていかなければならないということを示唆してくれるようなできごとでした。
加藤:転機という意味では、腹巻さんが社長に就任される前年には構造改革にも踏み切られました。「能率風呂」という風呂釜で創業され、住宅設備の総合メーカーへと成長してこられた御社の方向性を、大きく切り替えるという決断でしたね。地元との関係も深い中、早期退職の募集もされた。苦渋の決断だったと思います。
腹巻:経営者であれば誰もができればやりたくないことです。しかし、なかなか浮上しなかったキッチン・バス事業を思い切ってやめ、そこに関わる固定費を減らすという判断をしました。太田の頃から社員を大事にするという文化がありましたから、多くのご意見も頂戴しました。ただ、今やっておかないと将来的に立ち行かなくなるというのも事実です。いかに判断するかというのが、経営の仕事ですね。
加藤:まだ余裕のある時点で変えていこうと判断されたわけですね。「両利きの経営」を提唱するオライリー教授も、成功してきた大企業が生き残る術として「自分たちのやり方が通用しなくなった」と受け入れることの重要性を強調しています。御社も第二創業に向かって「両利きの経営」を志向されていると伺いました。腹巻社長が考えられている「両利き」とはどんなものですか。
腹巻:「両利きの経営」を志向することは、当社の中期経営計画である「Vプラン23」に反映されており、まずは事業ポートフォリオの転換は検討することが必須で、いくつかのポイントがあると考えていました。「これまでの商材を既存の商流で売る」という既存モデルに対し、販売チャネルを変えてみるのもひとつの新しい試みです。具体的には、一般の住宅向けだけでなく業務用分野の拡大をすでに始めておりますし、海外マーケットは東南アジアなどにも広げていきたいと考えています。
一方、従来はやってこなかったような商材・サービスを、これまでのお客さんに対して提供していくということもあります。こちらは、商品を売りっぱなしにするのではなく、買っていただいた後のサービスもセットにして展開することを試行しています。
さらに、お客様も商材・サービスも全く新しいものに挑戦するということも考えられます。非常に難しいことですが、5年先、10年先を見たときに私共の強みが生かせるのであれば、積極的にやっていきたいと思います。