パーソル総合研究所は、有職者の地方移住に関する調査結果を発表した。本調査は、コロナ禍によるテレワーク普及などを背景に地方圏への移住の関心が高まる中、地方移住の経験者および意向者の実態や、移住に対する意思決定の要因について定量的なデータ・知見を提供することにより、経営・人事、自治体、働く個人に資することを目的に実施したと述べている。
本調査では「移住」を、自らが何らかの意思を持って、主たる生活拠点を別の地域に移すことと定義し、会社都合の転勤およびバカンスなどの行楽的滞在は除いている。一方で、二拠点居住やノマドワーカーなどについては、「多拠点居住」として統合し調査・分析の対象とした。また「地方圏」とは、移住意向者・無関心者の移住検討先の地域より、東京23区、さいたま市、千葉市、横浜市、川崎市、大阪市、京都市、神戸市を除く、国内の市町村としている。
調査結果概要
1:実際に多い移住のタイプ
社会人になって以降、自身の意向で、都道府県をまたぐ地方圏への移住をしたことがある移住経験者(N=7,866)のうち、最も経験者の多い移住タイプは、故郷とは別の地域に移住する「Iターン型」で38.6%。次いで、故郷の市町村に移住する「Uターン型」が20.2%、主たる生活拠点を持ちつつ他の地域にも拠点を設けて行き来する「多拠点居住型」が3番目に多く17.3%となった。
2:移住に伴う転職と年収増減の状況
移住経験者のうち、移住に伴って転職をしなかった人は53.4%(図表2)。移住に伴う年収変化は、58.6%が「変化なし」と回答した(「わからない・答えたくない」を除いて集計)(図表3)。従来、移住には転職が伴うと考えられ、移住促進に際し、地方圏に適した仕事がない点が課題視される傾向にあったが、今回の調査では「転職なき移住」が半数を占めることが明らかとなった。
3:移住後の生活に対する幸せの評価
移住経験者に、移住後の地域における暮らしについて、「その地域に住むこと自体に幸せを感じているか」を五段階で評価してもらったところ、「Uターン型」や「配偶者地縁型」は評価が高く、「Jターン型」「Iターン型」「多拠点居住型」は評価が低い傾向が見られた。Uターン型や配偶者地縁型は、その他の移住タイプに比べ、移住後の地域における情報や人脈を持っている場合が多い。そのため、リアリティショックや孤立などのリスクが低いことが影響していると考えられる。
4:希望する人が多い移住タイプ
今後の移住を検討中である移住意向者(N=2,998)のうち、最も多く検討されている移住タイプは、故郷とは別の地域に移住する「Iターン型」で56.7%。次いで、主たる生活拠点を持ちつつ他の地域にも拠点を設けて行き来する「多拠点居住型」が40.1%となった。
5:移住意向者の検討段階とテレワークの関係
移住意向者のうち、現在働いている企業において、テレワーク等により「在宅勤務」や「遠隔地居住」の働き方が可能な状況にある人ほど、近い将来の計画として移住を具体的に検討している。
6:移住意向者の検討状況
移住意向者のうち51.3%は、何らかの不安があり移住に踏み切れないでいる。
7:移住意向者の移住時減収の許容幅
移住意向者に、移住時の減収について許容できる減収幅を聞いたところ、20代では46.7%が「減収は考えられない」と回答した。また、年代を経るごとに減収を許容する傾向も確認された。
8:移住意向者の移住検討に影響する項目
移住意向者に対し、移住検討時に影響する項目を聞くと、1位は「地域での日常的な買い物などで不便がない」、2位は「地域の医療体制が整っている」となった。また、3位・4位には「街並みの雰囲気」や「穏やかな暮らしの実現」といった曖昧で主観的な項目が挙がった。移住に際しては、生活上必要な具体的条件(生活基盤の担保)だけでなく、移住候補地に対してポジティブな印象や期待感を抱けるといった情緒的な側面も重視されているようだ。