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DXの次のパラダイムシフト「QX」

「スパコン×量子コン」が未来を拓く──東北大学小林教授に聞く、社会実装に欠かせない“適材適所”とは

第4回 ゲスト:東北大学 小林広明教授

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HPCの研究者、量子コンピューティングに出会う

蓮村俊彰氏(以下、敬称略):本日は小林先生にスーパーコンピューティング(ハイパフォーマンス・コンピューティング、以下HPC)と量子コンピューティングの連携について伺っていきたいと思いますが、まずは先生のご経歴について伺ってもよろしいでしょうか。

小林広明氏(以下、敬称略):東北大学大学院在籍時からコンピュータのシステム設計に取り組んでおり、高性能・低消費電力のHPCシステムを研究してきました。その間、スタンフォード大学で客員准教授として研究する機会を得ており、マイクロプロセッサの研究にも従事しています。2001年からは東北大学に戻り、HPCのシステムの研究をしつつ、アプリケーションの開発もするようになりました。以降の約20年は、高性能なコンピュータを作ることと、それを多くの人が使えるような機能にすることを目指して研究しています。

 現在研究テーマの1つに「量子アニーリングを用いた次世代高性能情報処理基盤の開発」があります。これは2018年に大関真之先生と出会ったことがきっかけです。今でもHPCの研究も進めていますが、半導体の微小化の限界が見えてきていますし、HPCによるシミュレーションと量子コンピューティングのような新たなデータ科学の連携にも興味を持つようになりました。文部科学省の次世代領域開発事業に採択されたので、HPCの技術と量子アニーリング技術を掛け合わせた次世代型のHPC基盤の開発を進めています。

東北大学 大学院情報科学研究科 教授 小林広明氏
東北大学 大学院情報科学研究科 教授 小林広明氏

蓮村:なるほど。これまで指数関数的に伸びてきた半導体の性能がなかなか向上しなくなってきている中、新たな演算の仕組みとして量子コンピューティングを活用することで、HPCの性能を飛躍的に向上させようということですね。HPCと量子はどのような補完関係にあるのでしょうか。

小林:これまでプログラムを変えるだけで多様な処理が行える汎用性と柔軟性を備えたCPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)の高性能化が求められていました。しかしCPUの性能向上も物理的に実現可能な限界まで届きつつあり、最近ではAIや画像処理が得意なGPU(Graphics Processing Unit:画像処理特化演算装置)など、特定の問題に特化したプロセッサーが出てきています。量子コンピューティング、特に量子アニーリングは、この“特定の問題に特化したプロセッサー”の中でも、組み合わせ最適化問題に特化したものですね。

 私の研究では、「ドメインスペシフィック・コンピュータ」というGPUや量子アニーリングなど特定のアプリケーションドメインに特化した専用のプロセッサーを集め、汎用的なプロセッサーが全体を調和させていくというアプローチを採っています。

蓮村:「スーパーコンピュータで数千年とかかる問題も、量子コンピュータを使うと数分、数秒もしくはそれ以下で解くことができる」という記事を世界的に権威のある科学論文誌等で目にすることがあります。それは量子コンピュータがことさら得意な問題の計算を、その問題が得意ではないスーパーコンピュータで解いた場合の比較をしているということでしょうか。

小林:そうですね。役割が異なるものを比較してしまっているので、結果に差が出ているように見えるだけとも言えます。もちろん汎用的な機能を持ったゲート型の量子コンピュータが実用化されると、原理的には現在のコンピュータに置き換わる存在となります。しかしゲート型の実用化は数十年以上先の話ですし、古典コンピュータが世の中に浸透しきっている中ですべて置き換わることはなく、お互いが担う領域を変化させつつ、共存していくことになると思います。

アニーリング型、ゲート型といった形式の違いも含めた量子コンピュータの説明は本連載第1回をご参照ください。

住友商事 寺部氏・蓮村氏が語る、DXの次のパラダイムシフト「QX」──量子コンピュータで世界を変える

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この記事の著者

梶川 元貴(Biz/Zine編集部)(カジカワ ゲンキ)

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