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ESG時代のガバナンスとIR

市川祐子氏に聞く、“会社という船”とステークホルダーの関係から理解するコーポレートガバナンスとは?

【第1回・前編】ゲスト:マーケットリバー株式会社 市川祐子氏

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 本連載では、ESG経営をコーポレートガバナンスやIRの視点から紐解くべく、日本の企業のキーパーソンと対話を重ねていく。ホストを務める市川祐子氏(マーケットリバー代表取締役)は、NECで半導体事業の分社と上場のプロジェクトを経験してIRの面白さに目覚め、楽天で同社初のIR責任者として投資家との対話、資金調達、東証一部上場(指定替え)を担当してきた実績を持つ。2019年にその経験を振り返った『楽天IR戦記 「株を買ってもらえる会社」のつくり方』(日経BP)を出版したのに続き、2022年には『ESG投資で激変!2030年 会社員の未来』(日経BP)を刊行した。  第1回となる今回は、長年にわたって投資家と接してきた市川氏に、企業にとって投資家という存在の意味、投資家から見たコーポレートガバナンスの必要性、そして企業経営にESGの観点とパーパスが欠かせない理由などを伺う。

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長期視点の投資家との対話で経営品質が向上する

──NECグループと楽天で15年間IRを担当されたご経験から、最も伝えたいのはどんなことですか。

 IRは企業と投資家をつなぐ役割をします。その経験を通じて感じたのは、資本市場との対話によって、経営品質の向上が起きるということです。

 IRではさまざまな投資家に接します。プロの投資家である機関投資家、そして個人投資家です。どちらにも長期視点で取引する人たちと短期視点で取引をする人たちとがいます。また、証券会社も大きな存在です。機関投資家は証券会社のアナリストの意見も参考にして売買しますから、影響力があるのです。

 このなかでも特に経営の品質の向上につながるのが、長期の視点を持った機関投資家との対話です。

 楽天時代に長期にわたり大株主でいてくれた海外機関投資家がいました。その方が最初に投資したのは、楽天の業績が非常に苦しく株価も低迷し、買収した子会社が赤字という、難しい局面でした。その投資家は投資を決める前に役員に取材に来られましたが、それは「その子会社はいつ黒字になるのか」といった話をするためではありませんでした。「組織や文化をどう変えようとしていますか?」とか「ビジネスモデルはどう変わっていくんですか?」など、本質的な質問が非常に多かった。楽天グループ全体としての発展をどう実現していくのかという方向性を理解した上で、投資してくださったんです。

 このような投資家は、本質的な強みが失われていないと判断すれば、難しい局面でも応援し続けてくださいます。そのことに、経営者は非常に勇気づけられます。

 逆に、厳しい指摘をされることもあります。例えば「取締役会に社内役員が多いのはどうしてですか?」と問われました。当時の楽天は社外取締役が5人に社内取締役が8人という構成で、日本企業としてはスタンダードな取締役会の人員構成だという認識でした。社外の割合を増やしたらどうかという提案をいただいて、社長の三木谷さんは悩みに悩んだ末に社内取締役を減らし、過半数が社外取締役になるようにしたんです。結果としてそれは、経営にとても良い影響を与えました。創業者社長が経営している企業では、トップの周りに「NO」を言える人を敢えてどれだけ配置できるかが重要だからです。社外取締役の割合が増えたことで、取締役会での議論の質が高まったと思います。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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