「データのビジュアル化」が可能にする機動的な政策運用
岩嵜:そのほか、サービスデザインユニットの具体的な活動をご紹介いただけますか。
志水:データ組織とデザイン組織のコラボレーションという観点では、「政策データダッシュボード」があります。政策データダッシュボードは、マイナンバーカードの普及、地方自治体での子育て・介護関係の手続きのオンライン化、行政手続きにおけるアナログ規制の見直しなど、さまざまな政策に関わるデータをビジュアル化したものです。デジタル庁のウェブサイトで閲覧でき、完全なリアルタイムではありませんが、政策の直近の進捗状況を確認できます。
従来、こうした進捗データは、政策を所管する各省庁がPDFやExcelで公開していました。しかし、それでは、国民や地方自治体の職員が自ら最新版の文書を探したり、データを集計したりしなければならず、必要なデータにアクセスするのに時間を要してしまいます。政策データダッシュボードがあるとそうした非効率な部分が解消します。私自身、地方自治体の職員から「担当している業務に必要な情報がダッシュボードで見れて助かってます」という声を聞いたことがあります。実際の行政現場の方々の業務に役立てていただけるのであれば、嬉しい限りです。
鈴木:一方で、政策データダッシュボードは、私たちの業務にも役立っています。政策の実施状況を可視化することで、その政策が、どの地域の、どの属性をフォローできていないかがひと目で把握できるからです。そうした情報は、サービスやアプリケーションを改善するうえでの重要な気付きになりますし、改善の成果を測る指標にもなります。政策のPDCAを回すツールとして、政策データダッシュボードは重宝していますね。
岩嵜:以前、フィンランドの行政組織を視察に訪れた際、似たような取り組みを目にしました。フィンランドの教育行政を司る中央省庁で、日本の大学入学共通テストにあたる試験のデジタル化の現場を視察したのですが、そこではサービスの利用状況などがリアルタイムでダッシュボードに表示され、開発の参考にされていました。行政組織におけるアジャイル開発の好例ですね。さらに、開発チームが集合している会議室のすぐ隣に大臣の執務室が位置していて、開発メンバーはすぐに意思決定権者に承認を得られる体制でした。
志水:全く同じというわけでありませんが、デジタル庁でも政策データダッシュボードが、常に大臣室やエレベーターホールで表示されています。ビジュアル化して、いつでも意思決定権者や関係者が政策の進捗状況を把握できる状態にしておくというのは、機動的に政策を運用していくうえで重要だと思います。