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組織戦略としてのデザイン

行政特有の“言語”をデザインで解きほぐす。デジタル庁のデザイン組織が示唆する「未来のデザイナー像」

【後編】ゲスト:デジタル庁 サービスデザインユニット 鈴木伸緒氏、松本隆応氏、志水新氏

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 本記事では、前編に引き続き、デジタル庁のデザイン組織「サービスデザインユニット」にフォーカスを当てる。膨大なステークホルダー、複雑な組織構造、難解な用語etc……。一筋縄ではいかない行政の世界において、サービスデザインユニットは、さまざまなアプローチで組織内にデザインを拡張させていた。その姿が指し示す「未来のデザイナー像」とは。武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授(ビジネスデザイナー)の岩嵜博論氏が、サービスデザインユニットの3名のメンバーに迫った。

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資料に「余白」を付与することで、組織を統合する「共通認識」が生まれる

岩嵜博論氏(以下、敬称略):ここからはサービスデザインユニットの具体的な活動について伺いたいのですが、本連載の「初回記事[1]」の中でも中心となるテーマとなったデザイン組織やデザイナーの「統合能力」についてお聞きします。民間企業に限らず、行政組織でも「組織の縦割り」は課題だと思いますが、そうした壁を乗り越えるために何か取り組まれていることはありますか。

鈴木伸緒氏(以下、敬称略):おっしゃる通りで、行政組織として各種サービスを提供するうえで、機能の重複やユーザー体験の不整合は回避しなければいけません。そのためには、部門間の壁を取り払い、職員の意識や方向性をまとめる必要があります。そこで、サービスデザインユニットでは、議論のたたき台となるようなビジュアルを作成して、各部門間のコミュニケーションを促進しています。

岩嵜:「ビジュアル」というと、具体的にはどのようなものですか。

志水新氏:(以下、敬称略):例えば、カスタマージャーニーマップやサービスブループリントのような、ユーザー視点でサービスの全体像を図示したものです。行政でプロジェクトを進める場合、多様なステークホルダーを議論に巻き込む必要があります。その際、サービスブループリントのような情報をビジュアル的に整理したものであれば、多くの人が内容を理解できますし、「ここはこうしたい」といった要望や指摘も入れやすいです。結果的に、多くの人が議論に参加でき、フィードバックが活性化します。

サービスブループリントのイメージ図
サービスブループリントのイメージ図/クリックすると拡大します

岩嵜:なるほど。それは興味深い話ですね。ほかに、そうした事例はありますか。

松本隆応氏(以下、敬称略):行政文書だけでなく、PowerPointで作成された資料の抽象度を高めて、より分かりやすい形にビジュアライズし直すこともあります。それを委員会などの会議の場で説明資料として用いていますね。

岩嵜:一般に「ビジースライド」と呼ばれる資料ですね。それをビジュアライズし直すことで、どのような効果があるのでしょう。

松本:よい「余白」が生まれて、議論がまとまりやすくなると感じています。もともと、行政組織が作成する資料は、網羅性が極めて高く、誰かが意図を入れ込む「余白」がほぼありません。しかし、それでは「このプロジェクトは何のためにやっているのか」という大原則や目的が見失われ、議論が硬直化しがちです。資料の具体性が高すぎて、最も抽象度の高い目標であるミッションやビジョンと乖離しすぎているわけです。

 そこで、程よく資料の抽象度を高めることで、組織のミッションと現場がリンクされ、「私たちのやるべきことはこれだ」といった共通認識が醸成されやすくなります。行政組織は、膨大なステークホルダーを相手に、さまざまな事象に対応しなければならないため、組織の力が分散して、リソースが不足しがちです。そうした組織の力をもう一度束ねて、一定の目標に方向づけるためにも、デザインの役割は大きいと考えています。

松本隆応
デジタル庁 サービスデザインユニット 松本隆応氏

岩嵜:社会学で生まれ、その後デザインや経営学でも参照されている「バウンダリー・オブジェクト」という概念があります。これは、あるモノ(object)を媒介に、さまざまな境界(boundary)で隔てられた人や組織、専門分野を繋ぎあわせることを指します。いわゆる「ビジースライド」を「余白」のある資料に作り直して、それを媒介に組織内の共通認識を醸成するのは、まさにバウンダリー・オブジェクト的な活動だと思います。


[1]両利きの経営に「デザイン人材の統合能力」がなぜ必要なのか──デザイン思考の限界を語る前にすべきこと』(Biz/Zine、2023/05/08)

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デザイナーやデータ人材は「あくまで支援者」であるべき

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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