SMBC信託銀行におけるCX推進の位置づけ
講演はSMBC信託銀行の紹介から始まる。同行は、フランス系のソシエテジェネラル信託銀行とシティバンク銀行のリテール部門が統合し、三井住友フィナンシャルグループの一員になったことで現在の名称となっている。主に「PRESTIA」というブランド名で各種サービスを展開しており、個人金融ビジネスを主軸としながら特に外貨に強みを持つ銀行で、外貨に関しては国内でナンバーワンの預かり残高を誇るという。セグメントごとに様々なランクの信託業務サービスを提供するほか、不動産業務や証券代行業務も行っている。
FinTechの発展にともない様々なツールが出てきていたり、異業種による金融への参入が進んだり、国内市場の縮小が進んだりと、金融業界を取り巻く環境の変化が激しい現在、金融機関では特にCXは重要であると津村氏は話す。また、金融庁による関心や規制が強まったことで顧客本位の原則の強化も求められている。厳しい市場環境が続く中で生き残るにはCXを重視しなければならないというのだ。
SMBC信託銀行では、CXを「物質的価値」と「感情的価値」を合わせた「顧客総受取価値」と捉えているという。物質的価値とはいわゆる金融サービス自体の価値であり、感情的価値とは顧客にとっての“感じ方”を意味する。銀行によってサービスに大きな違いはないため、他行と差別化するには、感情的価値が特に重要であると津村氏は主張する。
感情的価値を高めるため、同行では2019年から本格的にCX向上の取り組みを開始し、最上位として「CX戦略基本方針」を掲げた。CXがビジネスの核であることを明確に打ち出し、CXコンセプトを言語化することで、あらゆる部署のメンバーがCXについて共通認識を持つことができるようにしたのだという。顧客と銀行の接点をPRE(購入前)、IN-SERVICE(購入時)、POST(購入後)の3段階に分けた場合、特に重要なのは「IN-SERVICE」の段階だが、中長期を見据え各段階でもCX向上に努めたいと津村氏はいう。
なおCX推進の全体像だが、同行では、「PDCAサイクル」ではなく、「STPD(See-Think-Plan-Do)」サイクルでCXの推進を行っている。Seeでは顧客ロイヤリティ調査に加え、苦情や不満も顧客の「声」として取り上げている。また、同行の一番のファンである従業員の「声」を集める仕組みも作り、包括的に吸い上げるようにしているという。Thinkでは、四半期ごとに経営会議の中で「お客さま本位の業務運営推進委員会」を開催し、吸い上げた「声」をもとにCX推進部が事務局となって会議を行う。そのうえで次のPlanを考えていくというのだ。