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意思決定のサイエンス

両利きの経営を起業家的な思考と行動で実践する「エフェクチュエーション」とは。神戸大学吉田准教授に聞く

【第2回・前編】ゲスト:神戸大学大学院 経営学研究科 准教授 吉田満梨氏

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 連載「意思決定のサイエンス」は、主に大企業における新価値創出、特に「両利きの経営」を推進していく際に鍵となる「必要な意思決定な何か」を探求するための実践的な思考法や行動原理について識者とともに紐解いていく。今回は神戸大学大学院准教授でマーケティング論を専門とする吉田満梨氏へのインタビューをお届けする。前編では、近著『エフェクチュエーション 優れた起業家が実践する「5つの原則」』(ダイヤモンド社)で解説されているエフェクチュエーションの概要、他の経営学理論や新規事業開発のメソッドなどと比較した際の特徴を聞いた。

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新市場創造の理論化としてのエフェクチュエーション

──最初に、吉田先生のこれまでのご研究についてお話しください。

 私が一貫して関心を持ってきたのは、「新しい製品市場がどうやってできるのか」ということです。

 実際には、マーケティングの実務者による市場創造や価値創造という仕事によってそれができていくわけですが、上手く説明できる理論体系がない、というのが大学院生時代からの問題意識でした。今でこそ、そこに注目するマーケティング研究や研究者のコミュニティがありますが、当時はそれがほとんどなかったんです。

 そこで具体的な現象の分析から始めようと、企業の製品開発者の実践などについて、事例研究を繰り返しやってきました。

 その中で、今や4,500億円規模にまでになった緑茶飲料の市場を最初につくった伊藤園さんの事例も分析しました。それを論文にしようとしたときに、この事例を上手く位置づけられるような理論がないかと様々な先行研究を探したんです。

 その過程で出会ったのが、サラスバシー先生(ヴァージニア大学ダーデンスクール サラス・サラスバシー教授)らのグループによる「エフェクチュエーション」の研究でした。初めて自分に近い問題意識を持つ方々の素晴らしい論文を読んで、衝撃を受けました。

 その論文は2009年の『ジャーナル・オブ・マーケティング』という雑誌に載っていたのですが、調べてみると、サラスバシー先生がエフェクチュエーションを提唱する最初の論文を書いたのは2001年のことでした。しかも『アカデミー・オブ・マネジメント・レビュー』という経営学全般の中でもトップレベルのジャーナルのひとつに掲載されていたんです。その後、サラスバシー先生は3人の共同研究者と一緒に研究をされるようになり、経営学のトップジャーナルを総なめしている状態でした。「なんて戦略的で、ヤバい人たちがいるんだろう」とびっくりして、夢中になって読みました。ただし、そうした彼女たちの偉業もまた、意図的な戦略ではなくエフェクチュエーションを実践された結果であることを後に知りました。

──強く魅力を感じたポイントはどこですか。

 当時なされていたマーケティングの研究というのは、既に存在している産業構造や市場構造を与件とした上での戦略的行動や競争戦略のようなものがほとんどだったんです。ですが、その環境が途中で変わっていくのが、現象を見ていればわかるんですよね。なぜ変わるのかを解き明かす研究が必要だ、と感じていました。

 サラスバシー先生の2001年の論文では、「いまだ存在しない市場を作る」ということが、これまでの経営学やビジネススクールの授業で扱われてこなかったという明確な問題意識が打ち出されていました。そして、新しい市場を作るのは「コーゼ―ション(目的からスタートし、目的を達成するには何をすればいいかを考え、特定の結果を生み出すための手段を選択するという意思決定プロセス)」ではなく「エフェクチュエーション(優れた起業家に共通する意思決定プロセスや思考)」だと提唱されていました。その重要性が、私にもすごくよく理解できたんです。

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やつづかえり(ヤツヅカエリ)

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