既知と未知を整理する
課題に対して、既にメンバーが知っていることは何だろうか。仮に、その課題が生まれた原因や背景に対して仮説を持っているのであれば、それも一つの知識として扱う。たとえば、「ユーザーのニーズ」「課題に対する競合他社の行動」「その課題を構成する要素」などが考えられる。各メンバーが把握していることをリストアップし、整理していこう。
既知を共有した後には「課題を解決するために知っておくべきだが、まだ把握できていないこと、わかっていないことは何か?」を問いかける。「ユーザーが購買決定をする瞬間に最も強く感じていること」「今の製品やサービスが飽きられた後に求められるもの」「利害関係者の将来の行動パターン」など、あらゆる視点で知るべきことをあげていく。
そして、リストアップが完了したら「課題を解決させるうえで、最も知らなければならないことはなにか?」と問いかけながら優先順位を設定しよう。手に入れるべき知識が判明すれば、次のステップは未知のものを既知の状態へ変えるべく、具体的に行動することだ。
何をすればいいだろうか?ユーザーがいる現場に出よう。ユーザーの行動を観察し、対話を行う。もしくは、自分自身がユーザーになりきって特定の環境で製品やサービスを使ってみる。現場には、誰もまだ気づいていない「イノベーションにつながる発見」が転がっている。以前の連載でも紹介したソニーのウォークマンも現場の小さな発見がヒントになった。
当時会長だった盛田昭夫は、自分の子供たちが、家に帰ってきて真っ先にすることが部屋のステレオのスイッチを入れることだと「知って」いた。この知識により「音楽とのつながりをより深めるには?」という問いも生まれることになる。
以上のように、チームの特性を共有し、ユーザーの課題を設定したうえでチームの知識を明らかにすることで、どの知識をどのように現場で獲得するかが明らかになってくる。「知覚」の最初の段階で行うことは、現場でユーザーと関わりながら「発見と学習」を行うための事前準備である。この準備を丁寧に行うことで、現場に出て行う調査が意味あるものとなる。
本稿内の出典・参考文献は以下にまとめます。
- IDEO.org『イノベーションを起こすための3ステップ・ツールキット』一般社団法人デザイン思考研究所編.
- P. レンシオーニ (2012) 『ザ・アドバンテージ』矢沢聖子訳, 翔泳社.
- P. F. ドラッカー(2004)『新しい現実』上田淳夫訳, ダイヤモンド社.
- Sony Japan,『Sony History』
- キース・ソーヤー (2009)『凡才の集団は孤高の天才に勝る』金子宣子訳、ダイヤモンド社