経営学におけるエフェクチュエーションの位置づけとその概要
──読者のために、吉田先生から簡単に経営理論におけるエフェクチュエーションの位置づけや、概要についてお話しいただけますか。
吉田:はい。以下の図は、エフェクチュエーションの提唱者であるサラスバシー先生(ヴァージニア大学ダーデンスクール サラス・サラスバシー教授)らの過去の論文に掲載されているものを参考に作成したものです。
これは縦軸が「予測」をどれだけ重視するか、横軸が「コントロール」をどれだけ重視するかを表し、既存の理論とエフェクチュエーションがそれぞれどこに位置するかを示しています。
大長さんのおっしゃる「戦略思考」で用いられるであろう、アンゾフやポーターの理論は左上に当たります。その対局の右下にくるのが、エフェクチュエーションです。予測を全く重視せず、かつコントロールを大変重視するという理論です。
大長:分かりやすいですね。
吉田:そのエフェクチュエーションですが、『「予測」ではなく「コントロール」によって不確実性に対処する思考様式』と定義づけられています。逆に、予測を踏まえた計画立案を重視する理論を「コーゼーション」と言います。
提唱者のサラスバシー先生は、熟達した起業家を集めて実験を行い、彼らが事業を起こす際に共通して用いる対処の仕方を5つのヒューリスティック(原則)としてまとめ、その総体を「エフェクチュエーション」と呼んだんです。
それまでの経営学が重視してきたコーゼ―ションは、不確実な取り組みに際して事前にできる限りの情報収集をし、取りうる選択肢を網羅的に挙げた上で、目的に対する最適な手段を追求する思考様式です。
しかし新しい事業を立ち上げるとき、最初は目的も顧客も競争相手も明確ではありません。そのような状況において、熟達した起業家たちは手持ちの手段ですぐにできる行動を考えます(「手中の鳥」の原則)。そしてそのリスクが許容可能なものであれば実行します(「許容可能な損失」の原則)。
すぐに行動を起こすことで、他の方との相互作用が起き、新たなパートナー関係をつくることができます。そうすると、手持ちの手段が増えたり新たな目的が加わったりするんです(「クレイジーキルト」の原則)。
その上でまた、自分たちの手持ちの手段を用い、許容可能な損失の範囲内で行動をするということを繰り返すのですが、もちろん失敗や予期せぬ出来事も起きます。しかし、それを避けるのではなくむしろ活用し、資源を拡大していきます(「レモネード」の原則)。
ここまでの4つの原則でサイクルを繰り返していくと、予測を一切必要とせずに、手持ちの資源や目的を拡大しながら結果を生み出していくことができるんです。
そして、このサイクル全体に関わる起業家たちの世界観を示すのが「飛行機のパイロット」の原則です。自分たちがコントロール可能なことに集中し、予測ではなくコントロールによって望ましい未来を作り出していくのです。