部門間の情報共有を妨げる「感情」にどう向き合うか
藤井保文氏(以下、敬称略):前編では、ベネッセさんのDX組織であるDigital Innovation Partners(以下、DIP)が、事業やサービスを横断した顧客体験を構築するため、どのような活動をしてきたのかをお伺いしました。小さな成果を積み重ねることで経営層や社内の支持を得て、事業横断のプラットフォームを構築する取り組みに繋げたエピソードは、今まさにDXやCXの構築に取り組んでいる企業の良き見本となるお話しでした。
ただ、一方で、各事業部門や各サービスには個別の事情があるものです。部門内のデータや企画を全社で共有することに抵抗のある人も少なくないはずです。そうした抵抗感や忌避感にはどのように対応したのか気になります。
水上宙士(以下、敬称略):たしかに抵抗感を示す社員はいないわけではありません。特にベネッセの顧客層は、幼児や社会人、高齢者、学校など、属性がかなり幅広いです。そのため、取り扱う情報は多岐にわたりますし、事業ごとやサービスごとに情報共有を控えたい個別の事情が生まれやすいのだと思います。実際に「このデータは機密性が高いので、プラットフォーム上で共有したくない」という声が上がったこともありました。ただ、この対応についてもその他の活動と同じで、社内の機運を醸成するしかないと思います。
藤井:そこでも小さな成果を積み重ねるのが重要だと。
水上:そうです。実際に、事業横断の取り組みが拡大していくなかで、情報共有を避けたいという声は次第に減っていきました。事業部間を隔てているのは、組織構造や事業特性の問題だけでなく、感情の部分も大きいのでしょう。なので、まずは社内で事例を作って、情報共有に忌避感を抱く部門の不安を解消していく必要があります。
その意味では「まずどの部門から協働を始めるのか」は重要なポイントかもしれません。情報共有に対して積極的でない部門から着手してしまうと、説得に時間を要し、取り組み自体が頓挫するおそれがあります。そのため、まずは社内を見渡し、どの部門が前向きなのかを見極めて、その部門から情報共有の取り組みを始めるのが良いでしょう。そうすれば、短期間で事例を作ることができ、取り組みを横展開が進みやすくなると思います。