正しいデータの整備なしに、経営の意思決定への活用は実現しない
マネーフォワードでは、2019年頃から経理プロセスにおいて多くの改善に着手した。
以前は、給与や固定資産など、会計周辺のプロセスが統合されておらず、データの不整合が多発していたが、現在では労務部門の給与データや経費精算、経営管理部門が持っている予実管理などのデータがそれぞれAPI連携でつながるようになった。また、仕訳はすべて手作業で行われていたが、現在は95%以上が自動化されたという。これによりデータの整合性が保たれ、正確なデータを前提に、迅速かつ適切な意思決定が行えるようになったのだと松岡氏は語る。
また、請求書を受け取って仕訳をするプロセスは部門やプロジェクト単位では行えておらず、各プロジェクトでどのような費用が用いられたかは把握できていなかった。2020年頃には、経費に関するプロセスも大幅に見直された。
「現場のことは現場が一番よく分かっている」という考えに基づき、現場担当者が伝票に科目、部門、プロジェクトや取引先などの情報を登録する方式を採用した。その後は電子ワークフローを通じて自動的に処理される。これにより、経営に活用できるレベルの情報が効率的に集められるようになったという。
また、経理部門だけで決定するのではなく、IRや経営管理に必要な情報を会社内で確認したうえで、科目を適切な粒度で設定したことで、データを効果的に活用できるようになったという。
マネーフォワードのみならず、約20社のグループ企業全体にもこのプロセスを展開したと松岡氏は話す。マネーフォワード経理本部がグループ会社の経理業務を受託し、全てのデータを中央でまとめ、グループ会社の会計データもマネーフォワードと同じ粒度、同じ定義で管理する体制を整えたという。
その上で、自社プロダクトの『マネーフォワード クラウド会計Plus』を導入し、全グループ会社の会計データを データウェアハウスに集約する仕組みを構築した。これにより、グループ全体で統一されたデータ管理が可能となり、経営陣はあたかも1つの法人かのように把握できるようになったと同氏は振り返る。
この改善の効果は決算日程の短縮にも顕著に現れている。部門別の数字を予算と比較し、管理会計としてまとめ、経営者に報告するのには、以前は10営業日かかっていたものが、現在では第4営業日の夕方3時頃には報告できるようになったという。
以前は、第7営業日には財務会計は締めていたものの、その後の部門別報告の制作に3日ほどかかっていたという。これは、仕訳データに必要な情報が含まれておらず、表計算ソフトでの手作業が必要だったためだ。現在は仕訳段階で必要な情報を付与することで、財務会計の締めとほぼ同時に部門別予実表が作成されるようになった。
報告は、迅速なだけでなく、意味のある内容を伴うことも重要だと松岡氏は指摘する。部門や取引先に関する正しい情報が標準化されたデータとして各取引に付与されているため、費用削減や経営判断に繋がるデータも整備され、部門別集計も迅速に可能となった。その結果、部門別の強化や撤退などの高度な経営判断を、データで支える基盤が整備されたという。