イノベーションを起こせない組織が陥る、事業停滞と企業価値の低下
大手企業やベンチャー企業などで、主に新規事業開発や新規顧客開拓を手掛けてきた大塚和彦氏。転職当初のシステムコンシェルジュは、会社を成長させるために社長自らが強力な営業力を発揮し、従業員は社長を支援するという構造の組織だったという。
次のビジネス成長を考えるなどの際に、従業員からの課題やアイデアなどの意見も出にくく、新しい事業を手がける熱量も少なく、何かに挑戦するという状態ではなかった。そして、匿名での組織アンケートを行えば、従業員からの厳しい意見が出てくる状態だったという。
そのような組織の状況において、どうやって次の成長を考えた新規事業やイノベーションを起こしていくのか。そのために組織をどう改善するのか。大塚氏は変革の担い手として活動することとなった。
大塚氏は「イノベーションを起こせない企業の特徴に、まず『サイロ化』がある」と説明する。そのような組織では情報が伝達される中で、勘違いや改変が生じてしまう。また、失敗を追及してばかりいると、それが要因となり情報が遮断されることが多くなる。他にも、役割責任が不明確であること、一部の人だけに情報が偏ることなどにより、正しい情報が迅速に伝わらないことがある。その結果、ビジネスや業務の判断を正しく行えないというわけだ。
このようなサイロ化が進む組織では、従業員の満足度が低下し、離職率も増加。慢性的な人手不足から顧客離れなども生じ、さらにそのことで各種コストが増えていく。多くの施策の費用対効果はマイナスとなるものが増え、競争力が低下して企業の提供価値も目減りしてしまう。
これを改善するには「イノベーション」が不可欠だと大塚氏は述べる。その実現によって、①問題解決と生産性の向上、②競争力の強化と価値の向上、③新規事業開発と価値の創出、④顧客・従業員の満足度向上という、大きく4つの効果が得られるとした。そして、このことにより継続的な成長と発展、時価総額の増加、そして人的リソースの確保が可能になるという。
しかし、なぜこのような効果が生まれるのか。ある調査では、イノベーションを起こす企業と起こさない企業では、時間が経つほど時価総額に差が生じ、5年後には1.5〜3倍もの差がつくといわれている(※下図参照)。また、イノベーションに取り組んでいる国とそうでない国とでも、その差は明らかだ。急成長しているのは米国と中国で、いずれもイノベーションに取り組んでいる。一方、イノベーションが十分ではないといわれる日本は低迷し、ドイツに抜かれて4位となっている。
マクロ的にも日本には様々な社会課題があり、その最たるものの1つが労働人口の減少だ。厚生労働省のデータ(※下図参照)では、64歳以下の人口は2025年には昭和30年度と同じ水準となる。65歳以上84歳以下を入れれば若干緩やかになるとはいえ、早々に生産性を上げる必要がある。
大塚氏は、「生産性を上げるには、経営層と従業員、部門の異なる従業員同士という縦横のコミュニケーションやプロセスを改善しなければならず、急務だと考えている。そのためにもイノベーションが不可欠であることは間違いない」と訴えた。