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ESGが競争優位になる時代の知財を活かした経営──投資家が求める知財情報の開示とその範囲とは?

PatentSight Summit 2024 レポート Vol.1

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過去の実績だけでは未来の因果はわからないが、投資家との信頼構築に必須

竹口:統合報告書のためというよりも、知財活動がどうあるべきかで考えているのですが、たとえばライセンスビジネスのようなものは、割と簡単に「企図する因果パス」は出せると思います。でも、なかなか難しい事業もあります。

 ビジネスがうまくいくかの「KSF(Key Success Factor)」がシンプルに特許だったりすれば、因果パスは示しやすい。けれども、技術であっても難しい場合はありますよね。例えば、以下のような半導体に関する「特許価値総額」と「事業貢献金額」の比較したグラフがあります。これが未来を示しているかというと、私の解釈ではそうではないと思っているんです。

画像を説明するテキストなくても可
資料提供:京セラ株式会社/クリックすると拡大します

 とある部品を開発しているとしましょう。その部品の方式は現状AタイプとBタイプがあり、当社はAタイプを開発、競合はBタイプを開発しています。どちらも熱心に開発して特許化をしています。でも最終的にどちらがお客様に選ばれるかわからないのが現状です。この場合、もしAタイプが選ばれればAタイプの知財の価値は跳ね上がりますし、Bタイプは採用されないので、いくら素晴らしい特許をとっていてもその価値は下がります。

 知財の価値はそうやって時間と共に固まっていきますが、その累積がアセットインデックスのグラフに出ているわけです。つまりこのグラフは過去の実績を出しているのであって、将来を示しているわけではありません。企図する因果パスを「将来こうなります」と出しても、過去の実績がなければ信頼されないのではないかと思うんです。

齋藤:澤嶋さん、今の話はいかがですか。

澤嶋:その通りだなと思って聞いていました。まずどういった会社になっていきたいのかというビジョンや経営戦略があって、それぞれの事業に戦略があり、その中に特許戦略があって、知財がどういうふうに活用されていくのかを、我々としても知りたいと思っています。ただそれは、実績があってこそです。投資家からすると博打は打ちたくないので、こういった実績としての情報を出していただくことは、企業と投資家の信頼関係の構築という意味で、非常に重要ですね。

特許の件数よりも、特許がどう戦略に生かされるかが重要

齋藤:知財部門の業務は正確性を要しますし、細かい作業に向く丁寧な方が多い印象です。ですから、知財と将来の財務指標の相関を考え始めると厳密に考えてしまう傾向にあり、着手自体が難しいという声はよく聞きます。奥田さんはその点をどうお考えですか?

奥田:当社の場合は「ROIC逆ツリー」という形で統合報告書などに掲載しています。経営指標としてROICを最上位に起き、それをよくしていく経営を左側にブレイクダウンしていく形で記載したものです。ブレイクダウンして一番左側に現れてくるKPIが良くなれば、ROICも良くなるとわかりますよね。もちろんこれは100%因果関係にあるとは言えないものですが、KPIに知財に関係するものを入れて示すことはできると思っています。

画像を説明するテキストなくても可
資料提供:オムロン株式会社/クリックすると拡大します

 ROIC逆ツリーは事業をどう良くしていくかを見せるためのものなので、知財部門の立場としてはこのKPIの中に直接的に知財に関する指標があるかどうかはさほど重視していません。例えばこの図のように「革新アプリ数」とKPIに示している部分があります。この詳細の説明は省きますが、「革新アプリ数」をもっとブレイクダウンしていくと知財に該当する内容が含まれてきます。社内でどのように知財を扱うかが分かればいいのではないかと思っていますが、投資家の方々にはどう受け止められるかは気になります。澤嶋さん、いかがでしょう?

澤嶋:直接的にKPIに入っていなくても、知財とKPIのつながりがわかるように開示されていると、きちんと考えてらっしゃることがわかるので投資家に響くと思います。知財部門がどういうKPIで評価されているかをお聞きすると、「今年は特許を何件取るのが目標です」とおっしゃるばかりで、それがどのように戦略に生かされていくのかが伝わってこないことがよくあります。

 特許件数と知財価値はある程度連動しているのかもしれませんが、それでは投資家には響かないんですよね。知財に関係したKPIが最終的に事業戦略につながるのか、もしくは事業ポートフォリオの組み替えに関係するのか、そのストーリーがちゃんと構築され、経営者がどのように見ているかが伝わってくることが大事だと思います。

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知財部門が投資家に伝えたいこと、投資家が知財部門に伝えたいこと

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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