「文化醸成」「人材育成」を経て次なるフェーズへ
イノベーション:FICについて、スタート時の狙いや、これまでの変遷についてもお聞きしたいと思います。特に、最近ではプログラムの改善も進んでいると伺いました。
斉藤:FICの前身プログラムは、2015年頃に富士通の特定事業部門内で始まりました。しかし、新規事業をもっと多く生み出すためには、社内でのさらなる展開が必要と感じていました。次の段階として、予算や投資を管理する部門の大規模プログラムとして取り組むようになったのですが、まだ課題がありました。たとえば審査や投資の機能は充実したものの、思うように新しい事業案が集まりません。というのも、長年のサラリーマン気質を切り替えるのが難しい社員が多く、新しいことを考えること自体があまり得意ではない状況があったからです。
その後、2020年7月に始まった全社DXプロジェクトの「フジトラ(Fujitsu Transformation)」を契機に、FICもさらに大きく転換しました。審査と投資に加え、教育機能を重視し、まず挑戦してみるという姿勢が根付くように整えました。「文化醸成」「人材育成」「事業創出」の3本柱を揃えることで社内の風土もより挑戦的になることを期待され、今のFICが形作られていったのです。
イノベーション:なるほど。教育機能を充実させることによって、社員のマインドセット自体を変えていくように改善されたんですね。FICを支える運営体制についてもお伺いしたいのですが、他社に比べると大所帯の組織だとお聞きしています。
殿村:FICは9名で運営しています。ただ、営業やSEだけでも数万人の従業員がいる富士通の中では小さな組織です。「Ignition」と「Challenge」、社内連携と社外連携など、それぞれ担当者がいますが、必要に応じてカバーし合って進めています。そのため、縦割りの要素はまったくなく、連携を重視した運営スタイルですね。
イノベーション:また、運営チームには中途採用者も多いと伺っています。起業経験者で、FICに加わるために他の部門から異動された方もいると聞いていますね。
斉藤:特に意図して構成したわけではないのですが、FICのミッションに共感してもらえる人材が自然と集まった結果です。多様なバックグラウンドのメンバーがそれぞれの経験を活かして、新規事業支援の質を高めてくれています。
川口:背景が多様なメンバーだからこその良さと難しさを感じています。私自身、FICに加わったとき、メンバーが持つアントレプレナーシップの捉え方が、それぞれ異なることに驚きました。事業創出に振るか、人材育成や文化醸成を主軸にするか、昨年はその方向性についての議論が絶えなかったですね。
イノベーション:その議論は他社でもよく耳にします。方向性が定まらないと、プログラムの内容や結果にも影響が出ますよね。
川口:まさにその通りです。人材育成や文化醸成はこの数年で基盤が整ったと捉え、現在は「事業創出」に軸を据えています。2024年からは事業を積極的に生み出していく段階です。こうした方針変更に合わせて、FICのウェブサイトや資料も刷新しました。