DX推進において顧客起点の経営/顧客体験の向上が重要だという判断に至った理由
──そこでカスタマージャーニーを理解することで「お客様の体験」を起点として事業を再考するとしたのは、何か意図があったのでしょうか。
山地:「お客様」が部門の枠を超えた共通言語だと考えたからですね。プログラムには現場で活躍する営業職だけでなく、開発や経理といった幅広い部門から参加者を招いています。ただ、当社は組織の規模が大きく、部門ごとやチームごとに目標やミッションにもばらつきがあるため、プログラム実施にあたっては参加者全員が共有できる価値観や世界観を定めなくてはいけません。プログラムの設計をするにあたって、この部分にはかなり頭を悩ませたのですが、唯一当社の従業員全員が共有できる価値観が「お客様」というフレーズでした。
藤原直彦氏(以下、敬称略):全社レベルでのプログラムを実施する際には共通言語を定めることができるかが非常に重要です。特に、CXプログラムは自社の顧客を理解し、ビジネスモデル全体を可視化する取り組みのため、参加者が一体感を持って臨む必要があります。MIRARTHホールディングス社の場合は、「お客様」という言葉がそこにぴったりはまった印象です。この点は、外部のパートナーとして取り組みを支援する上でも、非常に取り組み甲斐がある部分でした。
──CXプログラムの詳細をお聞かせいただけますか。
藤原:CXプログラムは、三つのパートで構成され、その後の新規事業アイデア伴走支援を実施しました。CXプログラムの最初がレクチャーパートです。幅広い部門から参加者を招いたこともあり、まずは参加者たちの前提となる知識のインプットを行いました。「顧客体験とは」「物理的価値と感情・経験価値とは」といった基礎的な知識のレクチャーを通じて、この後に続くワークショップのための知識の土台を築きました。
続いて、ワークショップパートです。参加者たちが部門を超えてチームを結成し、顧客体験について議論していきます。ワークショップは三つの段階で構成されており、一つ目がペルソナの作成、二つ目がカスタマージャーニーの作成、三つ目が課題解決・新規サービスのアイデア創出です。ワークショップでの議論を通じて、まずは自社のお客様がどのような人物なのかを明らかにし、さらにお客様が商品の購入までにどのようなプロセスを経るのかを可視化することで、新たな課題解決やサービスの提供を構想します。
そして、最後がアイデア発表パートです。ワークショップパートで最後に出たアイデアを各チームのメンバーが約1ヶ月間かけてユーザーインタビューやデスクトップリサーチなどをして磨き込み、各拠点の部長クラスに向けてプレゼンを行いました。その後それぞれのアイデアについて、実際の事業とするために必要な検討ポイントや最初に検証すべき点などを議論させていただきました。
このプレゼンで高評価を得たアイデアについては、プログラムの次のステップとして約3ヶ月の新規事業伴走支援を実施しました。私たちSTUDIO ZEROの新規事業開発経験のあるメンバー数名が、それぞれのチームに入り込み、ユーザーインタビューやビジネスモデルの構築などの実践的な支援をさせていただきました。最終的に経営層へのプレゼンを実施し、事業化についての検討がなされたと聞いています。
──プログラムの実施対象や規模についても教えていただけますか。
山地:プログラムの実施対象としては、係長職から課長代理職、ミドル層からやや年次が若いメンバーが中心です。実施規模としては、全国各地の拠点をプログラム事務局の担当者たちが行脚する形で実施しました。