BtoBでは顧客と業務の理解が鍵を握る
藤井:ところでLIXILのビジネスの特徴的な点は、具体的にどんなところでしょうか。
高橋:まず前提として「認知度獲得は重視しない」という点は大きいかなと。住宅設備業界のなかではLIXILは一定の地位を占めていますし、競合もそれほど多くはないので、マーケティングやブランドコミュニケーションにおいて認知度獲得はそれほど重視されません。その一方で、顧客は販売工務店や設計事務所、流通店といったプロの皆さんなので、利便性や効率性が非常に重視されます。もちろん価格は購買における重要なポイントなんですが、それと同じくらい「LIXILの製品を使えばどのくらい業務が楽になるのか」が厳しく吟味されるんですよ。
藤井:たしかに。単に顧客接点をデジタル化すれば済むというわけではなさそうですね。
高橋:そうなんですよね。顧客の皆さんそれぞれで仕事のスタイルは違うし、実際に「お金を払うから紙のカタログは発行し続けてほしい」という方もいます。「営業担当者が顔を見せてくれるからLIXILを使っている」という方もいる。これらすべてを含めて顧客体験なので、DXにおける教科書的なモデルケースをそのまま当てはめることはできないんですよ。
藤井:たしかに、そうした場合にはUXデザイナーにも現場の経験が欠かせませんね。
高橋:実際に、UX Strategy & Design部には営業職出身の人材が多いです。しかも、偶然にもいろいろな商材の元担当者が集まっているので、社内の顧客体験をかなり包括的に把握できています。意図して人選したわけではなかったんですが、既存の人材を活用したメリットが出せているなと。
藤井:専門人材をうまく活用できないというのは、UXデザインやDXを推進する際に起こりがちな問題なんです。他社で実績のある専門人材なら、自社を一気に変革してくれるだろうと期待して採用するのですが、現場の業務や顧客体験に理解が浅いために課題を抽出できなかったり、戦略を立てられなかったりするわけです。一見遠回りに見えるかもしれませんが、実は既存の人材を育成したほうがUXデザインやDXのケイパビリティは獲得しやすいんですよ。
高橋:それに既存の人材を育成することで、組織文化にもフィードバックされるんですよ。UXデザインやDXのスキルはもちろん、新たな能力を獲得して実践するという一連の過程を組織文化のなかに埋め込むことができます。これは目先の利益を超えた会社の財産になるので、長期的にも有意義なことだと思いますね。