オープンイノベーションをきっかけに事業推進が加速
たとえ顧客課題に基づいた商品・サービスの設計ができたとしても、それを解決するためのノウハウがなければ、事業として成り立たない。コーセーも、プロテインの開発は初めてだったため、顧客課題を解決するためにどのような成分を配合すべきかについて悩んだ時期があったという。
そこでコーセーが選んだ道が、他社とのオープンイノベーションだ。菅井氏は、プロテインと相性の良い美容成分をリストアップする中で、森永製菓の「パセノール」に出合った。そして、「肌の水分量維持」「肌の弾力を保持」「脂質燃焼の促進」という3つのヘルスクレームを謳えることに魅力を感じ、OEMの依頼先づてに匿名で原料提供を打診。森永製菓がそれを受け入れたことで、互いに名前を明かし、協業がスタートした。
森永製菓で窓口となった松井氏は、「当初、コーセーから食品表示などに関する初歩的な質問をされて、事業の先行きに不安を覚えた」と苦笑いしつつも、「可能な限り食品業界の仕組みやノウハウを伝えるように心がけた」と振り返る。
このオープンイノベーションの過程で、大きな転機があった。森永製菓が、2024年5月に、ヒトにおける「パセノール」摂取群のサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)発現増加について発表[1]するのに合わせ、コーセーでの商品開発を早めて欲しいと依頼したのだ。コーセーの針金氏は、「森永製菓が商品開発プロセスに能動的にアプローチしてくれたことで、コーセーもトップダウンで迅速に動けた」と語り、外部からの圧力が効果的だったことを認める。結果的に、通常の商品開発プロセスよりも約1年早く、商品化に漕ぎつけられた。
しかし、「他社との協業は、もちろん事業を加速させることが目的だが、間違った進め方をしてしまうとステークホルダーの増加にともなって事業推進のスピードが落ちるリスクもある」と土井氏。では、コーセーと森永製菓がそのスピードを速められたのはなぜなのか。考えられる要因として、森永製菓の松井氏は、協業初期から、上長と研究者の合意を得るため、根回しを行っていたことを挙げた。一方、コーセーの針金氏は、大企業の経営層同士が元々つながりを持っていたため、双方の企業における合意形成とトップダウンの施策実行が円滑に進んだのではないかと分析する。
[1] 森永製菓株式会社 2024年05月09日プレスリリース「森永製菓の独自素材 “パセノール™”で、ヒトにおいてサーチュイン遺伝子 (長寿遺伝子)の発現の増加を世界で初めて確認」