新規事業を軌道に乗せるための4つのポイント
土井氏は、コーセーが新規事業「Nu⁺Rhythm(ニューリズム)」を軌道に乗せられた要因について、以下の4つのポイントを挙げた。
- 案件を事業化する仕組みを作った
- 成立した事業に他社を巻き込めた
- 協業を具体的な案件のもとに進捗させた
- 経営層を適切なタイミングでコミットさせた
1つ目は、案件を事業化する仕組みを作った点だ。新規事業創出プロジェクトは、ともすれば事業を提案すること自体が目的となり、人材育成プログラムの様相を呈することも少なくない。そんな中、起案者を一人にせず、伴走して支援する仕組みを整えたことで、起案した企画を実際の事業につなげられた。
そして、成立した事業に他社を巻き込めたこともポイントだと、土井氏は指摘する。コーセーは、多くの顧客と接点を持ち、顧客の課題についても深く理解していたが、商品化のノウハウは不足していた。自社で賄いきれない要素を他社との協業で補完したことで、事業推進のスピードを速められたのだ。
その協業を具体的な案件のもとに進捗させたという点も、事業化では有利に働いた。もし、案件が定まらないうちに両社が出会っていたら、協業すること自体が目的になり、有意義な新規事業の開発に至らなかった可能性が高い。今回は、コーセーのプロテイン商品の価値を、森永製菓の独自素材によって高めるという具体的な目的があったからこそ、協業を事業化に生かせたといえる。
4つ目のポイントは、経営層を適切なタイミングでコミットさせたこと。まず、通常の商品開発プロセスを大幅に短縮するには、トップダウンの施策実行が欠かせなかった。また、新規事業の方向性が定まらない段階だと、経営層のコミットメントを引き出せないことが多いが、今回はターゲットとする顧客やその課題を具体化してから経営層にアプローチしたため、経営層も事業の進捗イメージを持ちやすく、コミットしやすかったと予想されるのだ。
最後に土井氏は、各登壇者に一言、メッセージを求めた。新規事業の立ち上げを担った菅井氏は、「周囲の目を気にせず、とにかくやってみることが大切」と語り、同時にその挑戦をポジティブに受け止めるような会社の雰囲気づくりに期待を寄せた。一方、「顧客視点を貫くべき」と語ったのは、事務局で新規事業の仕組みづくりを支える針金氏だ。新規事業の起案者は、周囲のコメントの矢面に立たされるため、その影響を受ける可能性もあるからこそ、どんな時も変わらぬ顧客視点を持ち、必要に応じて事業の軌道を修正する存在が必要だという。そして、協業パートナーとして新規事業の開発に関わった松井氏は、「一つひとつのプロセスを管理するよりは、起案者にある程度任せ、そのアクションを促して支える方が、事業は進みやすいはずだ」と締め括った。