未来を見据えたR&D変革と組織の継続性
宮森:マレーシアの中高生を対象にしたSTEM教育支援プロジェクトでは、“未来の顧客”ともいえる若い世代とR&Dメンバーが接点を持ち、ともに学び成長する場を提供していますね。この取り組みが、大澤さんが着任時に掲げられた「新しい価値を生み出す」というミッションと完全に整合しているように感じます。また、社員の変化についてどのように評価されているのでしょうか。
大澤:このプロジェクトを通じて、社員が外部との接点を増やし、視野を広げる機会を提供できました。特に、学生たちの熱意や独創的なアイデアに触れることで、「外の世界」を学び、自分たちの役割や可能性について考えるきっかけを得ていると感じます。また、味の素が単なる調味料メーカーではなく、「サイエンスの会社」であり、社会課題の解決に取り組む企業だという新しい側面を、若い世代にも知ってもらえる点も重視しています
さらに、R&Dメンバーが外部から刺激を受けるための施策として、月に一度の研修プログラムを実施しています。このプログラムでは、スタートアップ企業や異業種の成功事例を学び、社会課題や新技術への理解を深めることを目指しています。半年間にもわたるコースの中で、メンバーたちは「自分たちなら何ができるか」を真剣に考えるようになりつつあります。
宮森:中高生たちへの支援や研修プログラムを通じて、社員が自ら学び、動き出す文化が醸成されているのですね。
大澤:特に、中高生への支援は10年単位で続けていきたいと考えています。そのためには、社員一人ひとりがこの活動の意義を深く理解し、自分たちの言葉でその価値を語れるようになることが重要です。このプロジェクトが私の退任後も続いていくために、組織全体に根付かせることを目指しています。そのため、今日の役員会議でもこの点を議論したところです。
宮森:「高校生たちから学んでほしい」というお話がありましたが、大澤さんがマレーシアの社員の方々を観察されている中で、彼らのポテンシャルに非常に期待されている印象も受けています。普段の業務では日本人の指示に従う場面も多い一方、社外イベントなどでは非常にクリエイティブな力を発揮し、情熱的に取り組む姿を見せてくれるということですね。
大澤:本当に驚かされることが多いんです。たとえば社内イベントでは、社員が自発的に「こうした演出を加えたい」「こんな方法で共有したい」といった提案を次々としてくれました。彼らの柔軟な発想力と行動力には毎回驚かされます。私が「いいね、どんどんやってみて」と伝えると、それを超える成果を形にしてくれる。こうした情熱と潜在能力は、組織にとって大きな財産です。
宮森:そのポテンシャルを業務にも活かしていければ、組織全体のさらなる成長につながりそうですね。
大澤:まさにその通りです。イベントの場だけでなく、日々の業務にもこの創造性を活かすことがポイントだと考えています。さらに、マレー系、中華系、インド系、そして日本人という多様な文化的背景を持つ社員が集まるマレーシアでは、Co-Creative(共創)の力が発揮されやすい環境とも直感しています。それを組織としての強みに変えるのが私の役目だと感じています。