2つの異なる要求を両立させるジレンマ
企業変革におけるジレンマの要因となる2つの世界の差異は、人類学者のティム・インゴルドと社会心理学者のジョン・ショッターの研究で述べられている「目的の達成」と「生成的な探求」の違いと対応している。彼らは、「生きる」ということは生成的な探求であり、状況の只中においてその場でなんとか作っていかざるを得ないという不確定なことに賭けるということなのだと述べており、宇田川氏はそれを「対話」という言葉で表現する。

今回の「Biz/Zine Day」のテーマである人的資本経営もまた、ジレンマを抱える言葉である。なぜなら、人間とは基本的に生成的で不確定な存在である。それを資本という貨幣に還元して合理的に説明できるとされるものに置き換えて捉え、更にそれらが機能するように、「経営する」ことを求めるものだからだ。しかし宇田川氏は、その難しさに価値の源泉があると指摘する。