コンサルに依存せず経営陣自らが戦略を考え、具体的な施策の方向性を示す
宇田川:LIXILさんでは、住宅の新築着工数が確実に減っていくことがわかっている中で、リフォーム事業を強化するという戦略を立て、そのためには直接の取引先のさらに先にいるエンドユーザーの顧客体験を良いものにしていかなければならない、という大方針を打ち出したわけですよね。
経営において戦略が大事だということはみんな分かっているのですが、実際は戦略を考えられていない企業が少なくありません。なぜLIXILさんでは可能になっていると思われますか。
安井:瀬戸が社長になってから、コンサルへの依頼を極力少なくして、役職員が自分たちで考える割合を大幅に増えしたことが一因としてあるかもしれません。戦略も例外ではなく、マネジメントチームがしっかりディスカッションして自分たちでつくっていくということを始めたんです。
その結果できたのが、PurposeやLIXIL Behaviorsを推進していく具体的なロードマップを定めた「LIXIL Playbook」であり、その中で大きな方針と具体的な施策を打ち出しました。それをグローバルで浸透させてきたという流れがあります。

宇田川:そのロードマップの中に、新築からリフォームへの転換というものがあるわけですか。
安井:そうです。戦略の全体としては、既存のビジネスをちゃんとキャッシュ・カウにしていくということと、新しいことにチャレンジしていくということなどがあります。その中で、我々がやっている日本事業に関しては、キャッシュ・カウとして最適化していくということ、新築からリフォームへの大きな転換をしましょうということが明確に書かれています。一般的には中計で示すような数値目標ではなく、方針と具体的な施策を定めた「LIXIL Playbook」だけがバシッと示されたというのが、非常に大きなことだったと思います。

宇田川:世の中には目標数値は出すけれど、どうやってそれを実現するのかがほとんど書かれていない企業のほうが多いものです。でも、中計の目標数値よりもまずは方針をしっかり出し、具体的に何をやるのかを明確にしたんですね。
安井:はい。そうなると我々マーケティング部門としても何をやらなければいけないかが具体的に見えてきます。例えば、以前のコンタクトセンターのKPIは「ミスの少なさ」だったのに対し、カスタマーエクスペリエンスを上げなければいけないという方針の下では、一番の指標はNPS(Net Promoter Score)になります。「当たり前品質」から「魅力的品質」へと目指すものが変わっていくわけです。現場もそれを受けて、このKPIを上げるためにはどうしたらいいかということを考えるようになった、ということだと思います。
宇田川:よくわかりました。このあとは、戦略をどう現場レベルで実践するのか、どのように自発的に動ける組織にするのか。芦村さんを中心にお話をお伺いします。