「道半ば」と感じている企業ほど変革が進んでいる
宇田川:安井さんは、この現場の変化をどう見ていますか。
安井卓氏(以下、敬称略):私自身は、マーケティング部門にいる800人の従業員が広く当社の仕事を捉え、お客さまがどんな体験をするのかという視点から自分の仕事へのアプローチを考えられるようになってほしいと思ってやってきました。それによって顧客体験が向上するということはもちろん大事ですが、従業員自身が、この仕事をしていて良かったな、もっと良くしたいなと思ってもらえたら、それが私にとっては一番嬉しいことなんです。
今は、上司の指示を待つのではなく、従業員それぞれが主体的に動いてくれる組織になりつつあると感じていますし、もっと進めたいなと思っています。まだ道半ばですけれど。

宇田川:安井さんのお考えは納得がいきます。トップマネジメントがちゃんと戦略を考えなければいけないというのはもちろんですが、おっしゃるような主体的・自発的な組織になっていかないと、戦略が実践され成果につながらないですよね。
そして、安井さんと芦村さんのおふたりともが「道半ば」とおっしゃったことも非常に興味深いです。私が最近よくお話するのは、慢性疾患的な組織の変革というのは、やっている側からするとずっと失敗し続けているように感じるものなのだ、ということです。やればやるほど常に課題が見え続けるからです。常に「道半ば」という感覚を持ち続けることは、実は変革が進んでいる証拠なんですよね。
増田:同感です。我々から見て良い取り組みをされていると思う企業にイベントの登壇依頼などをすると、取り組みを通じて本当に変革を実行されている方々ほど「いやいや、うちなんかまだまだですから」とおっしゃることが多いです。

宇田川:そうですよね。もう1つ興味深いのは、社長の瀬戸さんは、いわゆる「プロ経営者」と言われる人であり、安井さんも外部からのキャリア採用ですよね。こういう方々はトップダウンで変革を進めるものだと一般的には見られているんじゃないでしょうか。でも、お話を伺ってみると全く逆ですよね。
安井:外部から来た人間として考えているのは、いつかいなくなることがあるということなんですよね。私としては、この会社に長くいたいと考えていますが、先のことは分かりません。そういう人がトップダウンで一気に変えて、その人がいなくなったら元に戻りました、というのは悪手ですがよく聞く話です。自分がいなくなっても良い状態が続くようにしてからいなくなるのが、外部から来た人間の役割だと考えているんです。
私は、うまくいったことは全部メンバーがやったこと、失敗したら私の責任だとしています。そうすると、私がいなくなってもメンバーたちは自分たちでやれると思ってくれる。それが一番良い形だと思っています。