“人が動くユースケース”の浸透が成否を分ける

栗原:DXにおけるAIの活用や新規サービス創出など「攻めのDX」を推進するには、基盤となる環境整備が不可欠とのことでした。特に重要な項目についてお聞かせください。
白井:まず、システム面では「データマネジメント」が極めて重要です。データが適切に収集され、活用できる状態に保たれているかが鍵です。初期段階で完璧な体制を整える必要はなく、活用目的に応じて段階的に整備していくことが重要です。一方で、活用が先行すると、精度が低いデータを使ってしまい、結果「使えない」と判断されるリスクがあります。整備と活用は並行して進めるべきです。
組織面では、経営層がDX推進の意思を明確に示し、現場の試行錯誤を支援する姿勢が必要です。新しい取り組みは現場で歓迎されにくく、DXリーダーが孤立しがちです。現場のリーダーが仲間を巻き込んで挑戦を続ける姿勢を、経営として後押しすることが求められます。こうした挑戦や実績が評価制度に組み込まれており、個人のキャリアパスとしても可能性が広がるような状態が理想です。挑戦によって道が開けるという実感が、組織内の前向きな循環を生む鍵になります。
栗原:評価制度やキャリアパスとの連動は、現場のモチベーションに大きく影響しますね。
白井:DXやAI推進において重要なのは、「人が動く」ユースケースを創出することです。実際に「こうすればうまくいった」という事例を身近な同僚が実感できることで、社内での共感が広がります。成功事例を早期に経営層に報告することで、その価値が認識されやすくなります。真面目な人ほど「データ整備が終わらないと動けない」と考えがちですが、成果が出やすい領域から着手し、徐々に進めることが重要です。
この積み重ねが、社内の「仲間づくり」につながり、長期的には組織を動かす原動力となります。もし今、孤立していると感じている方がいれば、続ければ必ず共感してくれる仲間が現れることを伝えたいです。
「内製か外注か」という二項対立はもう古い
栗原:AIの進化やユーザーの期待が日々変化する中で、「外注」の形も変わってきていますね。柔軟に伴走してくれる支援体制が求められていると感じます。
白井:その通りです。「内製か外注か」という二項対立の枠組みは現場の実情に合わなくなっています。従来型のSIerによる「1億円のシステムを1年かけて納品する」手法では、技術革新や市場環境の変化に対応できません。
今後は社員と外注の境界が曖昧になり、外部パートナーが長期的に同じ部署で関与するケースも増えるでしょう。DXやAIのプロジェクトでは、経営層が熱意あるメンバーを集めて推進力を高めることが多いですが、実際に人の心を動かすのは容易ではありません。そうした場面で、外部人材がタイムリーに加わることで、突破口になることもあります。
栗原:社内だけでなく、外部とのナレッジ共有の重要性も高まっています。セキュリティや情報共有範囲への懸念を乗り越え、知見を共創できる体制が求められています。
白井:その通りです。業務知識や技術的なスキルを社内外で一緒に学ぶことが理想です。外部パートナーと共に学ぶことで効率よく学べ、得た知見はプロジェクト後も社内に蓄積され、次の挑戦に活かされます。学びのプロセス自体を、組織の資産に変えていく。このような取り組みを外部人材と一緒に進めていただければと思っています。
