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日本企業発・イノベーションへの挑戦者

顧客に向き合い続け「売れない」から前年比2倍成長へ。キリン発新規事業「premedi」の軌跡

ゲスト:Cowellnex 田中吉隆氏

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新規事業に求められる「大企業クオリティ」の功罪

──選考通過後、社内からはどのようなフィードバックがありましたか。

田中:率直にいえば「キリンの事業領域からは、やや飛び地だ」という評価だったと聞いています。「premedi」のビジネスモデルは物流が大きく関わるので、「キリンが物流にまで踏み込むのか」という議論があったようです。それでも、顧客の課題を深く掘り下げ、採算の取れるソリューションを提示できていた点を評価され、「スモールスタートで開始できて十分な可能性がある」と判断してもらえたのだと思います。

──事業化までの道のりで、特に苦労された点は何ですか。

田中:実証実験を通したサービス改善も大変でしたが、一番苦労したのは品質担保とレギュレーション対応です。医薬品を取り扱う以上、法令に則った表示が求められ、販売や流通には免許や資格が要ります。梱包時には医薬品が傷つかぬよう細心の注意を払い、返送時には偽薬が混入しない仕組みも構築しなければなりません。大企業としてクオリティは絶対に担保しなければならない。その一心で、弁護士や厚生労働省に確認しながら、サービス基盤を地道に整えていきました。

 結果的に、この品質担保に時間をかけたことが、事業の立ち上がりを遅らせた側面もあります。選考通過からサービス販売まで1年半もかかった上に、販売を開始しても、ほぼ売れなかったのです。1年間で100件契約という目標を掲げていたのに、実際には3か月で3件、半年で10件という有様でした。

 今振り返れば、薬局への営業ノウハウも体制もなく、商談資料も最低限。実績もないのですから、当然の結果です。もし、品質担保と並行して少しずつでも販売を始め、先に失敗を重ねておけば、修正のスピードはもっと速かっただろうと思います。

 ただ、その数少ないお客様と密にコミュニケーションを取れたからこそ、サービスを磨き上げられたのも事実です。対価を払って利用してくださるお客様からのフィードバックは、真剣そのもの。新規事業か否かなど関係なく、ただ実務に耐えられるかどうかを厳しく評価される中で、必死にニーズに応えていきました。

サービス・営業・組織が噛み合い、成長が加速

──顧客のニーズに応える過程で、サービス改善が進んだのですね。

田中:はい。サービスが良いものになれば、次は「どう売るか」のフェーズです。展示会をきっかけに導入薬局が増え、その成功事例が新たな顧客紹介や商談資料の改善へとつながりました。実績を作り、それを武器に別の顧客へ営業するという好循環が生まれ、アポイント取得や意思決定を促すノウハウが蓄積され、営業トークも洗練されていきました。

 その後、事業展開を加速させるために新メンバーを迎え入れたところ、そのメンバーがさらに別の優秀なメンバーを連れてくる形で、現在は11人の体制になりました。薬剤師や薬局営業の経験者など専門性の高い仲間が集い、営業、マーケティング、カスタマーサクセス、医薬品管理を網羅できる強力なチームになったと自負しています。

 この「サービス・営業・組織」という三つの歯車が噛み合ったことで成果が出始め、2025年は前年比3倍の成長率で推移しています。計画通り、2026年末から2027年には黒字化を見込んでいます。

──「premedi」に対する社内の反応はいかがですか。

田中:当初は「規模が小さ過ぎて、気にかけるまでもない」と無関心な人が大半でしたが、最近は応援してくれる人が着実に増えた印象です。私自身は、「premedi」が協和キリンやヘルスサイエンス事業といった他部門と薬局をつなぐ“ハブ”になれているのではないかと感じています。逆に、キリンビールやキリンビバレッジから得意先のドラッグストアを紹介してもらうこともありますが、提案や営業はあくまで私たち自身の手で行っています。

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「日本新規事業大賞」で未評価の事業に光が当たった

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この記事の著者

山田 奈緒美(ヤマダ ナオミ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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