ビジネスモデルにより異なる、予実のズレの修正時期
栗原:決算分析から得た気づきを、いかにして次の事業計画へとつなげていくのか。その「仮説検証サイクル」の実践的な回し方についてお聞かせください。
村上:木村さんにぜひお伺いしたいのですが、事業計画と予実管理の実務的な運用についてです。たとえば、期初に立てた予算が、事業環境の急激な変化で実績と大きく乖離してしまった場合、どのタイミングで、どのように計画を見直すのが望ましいのでしょうか。
木村:それは非常に重要な問いですが、「全社共通の正解はない」というのが私の答えです。最適な見直しのタイミングや手法は、その会社のビジネスモデルや、事業環境の変化に対する弾力性によって全く異なるからです。
海外では「ローリング予測」といって、将来のある一定期間の業績や計画を予測する際に、期間が過ぎるごとに実績データを取り込み、常に最新のデータに基づいて予測を更新していく手法もあります。しかし、たとえば電力会社のように計画が大きくブレない安定したビジネスもあれば、市場の変化が激しく、1年前に立てた予算が3ヶ月で陳腐化してしまうようなビジネスもあります。
ですから、「自社がどのような事業領域にいるのか」「自社のビジネスモデルの特性はどうなのか」という徹底した「自社理解」を起点に、自分たちに最適な計画の見直しの頻度や方法論を考えるべきです。四半期ごと、といった画一的なルールを適用することが、必ずしも正しいとは限らないのです。
栗原:計画と実績のズレを「失敗」ではなく、「学習の機会」として捉えるための文化を根付かせるには、リーダーは何をすべきでしょうか。
村上:まさに木村さんのお話に尽きると思います。突き詰めると、やはり3C分析、特にカンパニー(自社)の分析がすべての基本だということですね。意外なほど、自分たちの会社のことを客観的に分かっていないケースは多いですから。
計画と実績のズレが生じたときに、誰かの責任を追及するのではなく、「なぜ我々の仮説は市場の実態と異なっていたのか?」という問いを立て、チームで議論する。そのズレの原因が自社の強み・弱みに起因するものなのか、それとも市場や競合の変化によるものなのかを突き詰めることが、次のより精度の高い仮説に繋がります。リーダーは、その知的な探求プロセスを促すファシリテーターであるべきでしょう。

ビジネスパーソンが「事業計画」や「決算分析」を学ぶ意味
木村:本当にそう思います。多くの企業が他社の先行事例を求めがちですが、その前にまず自分たちの足元を見ることが重要です。他社分析も、それを通じて自社を相対的に知るために行うものですからね。
村上:実は子供が中学受験をしているのですが、模試を受けることで初めて自分の全国での立ち位置や、得意・不得意が客観的に分かります。それと同じで、比較を通じて自分を知り、自分に合ったやり方を見つけていく。このプロセスが、事業計画においても、ひいては個人のキャリア形成においても、最も重要なのではないでしょうか。
栗原:最後に、読者に向けて「事業計画」や「決算分析」を学ぶことの面白さや、キャリアへの価値について、改めてメッセージをお願いします。
村上:この両方のスキルを身につけることで、解像度高くビジネスの世界を見渡せるようになります。これまで点と点だった企業ニュースや経済の動きが、一本の線としてつながっていく感覚は、非常に知的好奇心を刺激するものです。このスキルは、どんな職種であっても、あなたの仕事に深みと説得力を与えてくれる、一生モノの武器になるはずです。
木村:事業計画とは、「未来は予測するものではなく、自らの意思で創り出すものだ」という宣言です。数字や計画に苦手意識を持つ人は多いですが、それは単なるコミュニケーションツールに過ぎません。大切なのは、チームで「何を成し遂げたいのか」という目的を共有し、そのための地図を一緒に描くことです。そのプロセス自体が、仕事の大きなやりがいや面白さに繋がっていくと確信しています。ぜひ、計画づくりを楽しんでください。
