スキルベース組織へのロードマップ「7つのアクション」
栗原:スキルベース組織への変革という壮大な目標に向けて、企業は何から手をつければよいのでしょうか。
後藤:書籍では、リスキリングを組織に根付かせるための具体的な指針として「7つのアクション」を提示しています。これは「1:制度」「2:戦略」「3:学習」「4:評価」「5:資格」「6:配置」「7:報酬」という要素から成り、これらを統合的に進めることが変革の鍵となります。

この7つのアクションのうち、特に日本企業で導入が遅れているのが、「1:制度」における推進責任者の任命です。欧米の先進企業の多くは、経営戦略と人材戦略の橋渡し役としてCLO(Chief Learning Officer:最高学習責任者)を設置しています。CLOは単なる研修担当役員ではなく、多くの場合CEO直轄のポジションとして、CDO(最高デジタル責任者)やCHRO(最高人事責任者)と連携し、全社横断でリスキリングを推進する極めて重要な役割を担います。

この図のように、CLOがハブとなりデジタル事業と人事制度をつなぐことで、初めてリスキリングは経営戦略と一体化するのです。経営陣が本気であるというメッセージを発信し、必要な権限と予算を与えることが変革の第一歩です。
栗原:日本であれば、経営企画部門の役員がCLOとして、経営層と人事部門、コーポレート部門と事業部門をつなぐ役割を担ってもいいかもしれませんね。
後藤:今後、あり得ると思います。
栗原:もう1つの重要なアクションが「4:評価」で、具体的には「スキルの可視化」になるように思います。スキルの分類法についても触れられていましたが、ここは非常に難易度が高いと感じています。
スキル可視化の「3つのアプローチ」
後藤:おっしゃるとおり、スキルの可視化はスキルベース組織への変革における最大の壁の1つです。この可視化を実現するアプローチとして、最新刊では「スキル・タクソノミー」「スキル・オントロジー」「スキル・フォークソノミー」という3つの手法を解説しています。

「スキル・タクソノミー」は、スキルをツリー構造で体系的に整理した「分類表」です。政府が策定するデジタルスキル標準(DSS)などがこれにあたり、組織内で共通言語を作るのに適していますが、変化に弱いという短所があります。
「スキル・フォークソノミー」は、LinkedInのように、ユーザー自身が自由にスキルを「タグ付け」していくボトムアップ型の手法です。現場の実態を反映しやすい一方で、表記揺れが起きやすく、体系的な管理には向きません。
そして、現在主流となりつつあるのが「スキル・オントロジー」です。これは、単にスキルを分類するだけでなく、スキル同士の意味的な関係性までを定義する「設計図」のようなものです。たとえば、「Python」と「統計学」というスキルがどう関連しているか、「R言語」のスキルがあれば「Python」へ移行しやすいか、といった関係性を捉えることができます。これにより、AIを活用した高度なキャリアパスの推薦や、スキルギャップの自動分析が可能になるのです。
理想的な進め方としては、まず「タクソノミー」で組織の共通言語を作り(Step1)、次に「フォークソノミー」で現場のリアルな声や新しいスキルを拾い(Step2)、最後にそれらの情報を統合して「オントロジー」を構築し、AI活用へと展開していく(Step3)という段階的なアプローチが有効です。この骨の折れる作業を、AI搭載のスキルテック・プラットフォームが支援してくれる時代になっています。まずは自社の現状を把握し、これらのアクションを一つずつ着実に実行していくことが、変革への着実な一歩となります。
栗原:ありがとうございます。このあとは、生成AI時代の個人のキャリアがどのように変容していくのか。その点から議論を開始させてください。