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生成AI時代のリスキリング

“リスキリングの先”にある働き方──専門性が融合する「PODシステム」と「ロンジェビティスキル」とは

【後編】一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表理事 後藤宗明氏

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リスキリングの新たな地平「ロンジェビティ・スキル」

栗原:最新刊の締めくくりとして「ロンジェビティ・スキル」という非常に重要な概念を提唱されています。これはどのようなもので、なぜリスキリングの延長線上にあるのでしょうか。

後藤:「ロンジェビティ(Longevity)」とは「長寿」や「現役期間」を意味する言葉です。私が提唱する「ロンジェビティ・スキル」とは、その名の通り、心身ともに健康で、長く生き生きと働き続けるための知識や習慣、行動を維持するスキルセットのことです。

Longevityを実現するための7大要素
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 なぜこれがリスキリングと関係するのか。それは、私が日本全国を飛び回る中で、多くの方が新しいスキルを学ぶ以前の段階、つまり心身のコンディションが整っていない状態にあると痛感したからです。「日本人は学ばない」と批判するのは簡単ですが、そもそも新しい挑戦をしようという意欲が湧かないほど、日々の仕事で心身をすり減らしている方が非常に多いのです。

 このことは私自身の痛切な経験からも言えることです。この仕事を始めてから5年間休みなく働き続けた結果、体重が100kg近くまで増え、高血糖や脂肪肝など、健康診断の数値も軒並み悪化しました。心身ともに満身創痍の状態で、「これはまずい」と一念発起し、海外で注目され始めていたロンジェビティの分野を学び、実践したのです。結果、14kgの減量に成功し、すべての健康データが標準値に戻りました。そのとき初めて、「54歳になっても、もう一度大きなチャレンジができるかもしれない」と、心から思えるようになったのです。

 この経験から、AIスキルを学ぶ以前に、まず挑戦できる心身の状態を取り戻すことこそが、多くの人にとってのリスキリングの第一歩なのだと確信しました。

世代別の通院率(2022年)
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 この厚生労働省のデータが示すとおり、日本では50代から通院率が急激に高まります。特に生活習慣病を放置すれば、労働力そのものを失いかねません。企業にとっても、従業員の健康はもはや単なる福利厚生ではなく、事業継続に関わる重要な経営資源なのです。

 最新刊では、ロンジェビティを実現するための要素として「食事」「睡眠」「運動」「つながり」「(病気・)医療」「美容」「いきがい」の7つを挙げています。これらは単独ではなく、相互に関係しており、総合的に取り組む必要があります。デジタルが苦手な方でも、自身の健康データ管理から始めれば、新しいツールを使う「自分ごと」になり、リスキリングへの第一歩となるかもしれません。

世界経済フォーラムが提言した「長寿先進国・日本」の成長エンジンとは

栗原:ロンジェビティは、個人の健康問題にとどまらず、少子高齢化が進む日本にとって、新たなビジネスチャンス、いわば「勝ち筋」にもなり得そうですね。

後藤:まさにおっしゃる通りです。少子高齢化は暗いニュースとして語られがちですが、見方を変えれば、日本は「長寿先進国」です。世界経済フォーラムでも「ロンジェビティ・エコノミー」という巨大市場に注目しており、2035年までに世界で9兆円規模に成長すると予測されています。高齢者が健康に長く働き続け、活躍できる社会を構築できれば、それは日本の新たな成長エンジンになり得ます。

 この「ロンジェビティ」の考え方は、ジャーナリストのダン・ビュイトナー氏が発見した世界の長寿地域「ブルーゾーン」の知恵とも深く結びついています。彼の著書『The Blue Zones(ブルーゾーン)2nd Edition(セカンドエディション)』(祥伝社)で紹介されている5つの地域(沖縄、サルデーニャ島、ロマリンダ、ニコジャ半島、イカリア島)の百寿者(センテナリアン)たちは、驚くほど共通したライフスタイルを送っています。

栗原:『The Blue Zones』では、長寿の秘訣として「9つのルール」が挙げられていますね。

後藤:はい。その9つのルールとは、「1:適度な運動を続ける」「2:腹八分で摂取カロリーを抑える」「3:植物性食品を食べる」「4:適度に赤ワインを飲む」「5:はっきりした目的意識を持つ」「6:人生をスローダウンする」「7:信仰心を持つ」「8:家族を最優先にする」「9:人とつながる」です。

 私が提唱するロンジェビティ・スキルの7大要素と見比べても、「運動」「食事(植物性食品、腹八分)」「いきがい(目的意識)」「つながり(家族、人とのつながり)」など、多くの点が共通していることがわかります。

 特に重要なのが、沖縄で「生き甲斐(いきがい)」と呼ばれる「はっきりした目的意識」と、同じく沖縄の「模合(もあい)」という相互扶助のコミュニティに代表される「人とのつながり」です。これらはストレスを軽減し、精神的な安定をもたらす、まさに健康長寿の基盤です。

 私がリスキリングの前に心身の健康が重要だと考えるのも、まさにこの点にあります。挑戦する意欲や目的意識、そしてそれを支えてくれる人とのつながりがなければ、人は新しい一歩を踏み出せません。

 今年3月には、世界経済フォーラムが企業に対して従業員のロンジェビティ実現を支援すべきだと提言しました。高齢化が進む社会で、従業員の健康管理を「自己責任」で終わらせる企業と、心身の状態に合わせて働き方を調整してくれる企業とでは、どちらが優秀な人材に選ばれるかは明らかです。企業が従業員のリスキリングを支援するのと同様に、ロンジェビティを支援することが当たり前になる社会を創ること。それが、人生100年時代を迎えた日本の持続可能性を高める唯一の道だと信じています。

栗原:本日は、生成AI時代のリスキリングの最新潮流からロンジェビティまで多岐にわたるお話をいただき、ありがとうございました。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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