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新規事業を成功に導く“デザイン”の力

「ビジョンプロトタイピング」で未来を共創する。新規事業の「対話のズレ」を埋めるデザインの力

第4回

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デザイナーが実践する、チームの創造性を引き出すファシリテーション

 デザインというと、まず思い浮かぶのは、美しく、使いやすい最終的なプロダクトをつくる仕事というイメージがあるかもしれません。しかし、これまでお話しした通り、実際の現場でデザイナーが果たす重要な役割の一つに「対話の場」をつくることがある、と私は考えます。特に不確実性の高い新規事業の現場では、正解のない問いに向き合い、異なる専門性や立場を持つメンバーが協働するためのチームの「創造的な空気」がとても大切です。優れたデザイナーはその空気をデザインする力を持っています。

 たとえば、抽象的な会話が飛び交うばかりで、議論がどこに向かっているのか曖昧な会議において、参加メンバーから出てくる抽象的なアイデアを一枚の紙に描き出すだけで、会議室の空気が一変することがあります。

 「それ、私も考えていた」「これは既存のプロダクトに似ている」「おもしろいが、どう実現するのか」──このように、一つのスケッチがきっかけとなり、自然に対話が始まります。ここで重要なのは、このラフなスケッチが完成形を描くためではなく、「ここから一緒に考えよう」という共創の「触媒」となっている点です。

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 スケッチは、むしろ少し拙いくらいの絵の方がよいこともあります。人前に自分の絵を見せるのは勇気がいるものです。しかし、粗くてもいいから、まずデザイナーが率先してクイックにスケッチを描くことで、「うまく描かなければならない」という心理的なハードルを下げます。重要なのは画力ではなく、「本質的に何を問いたいのか」を最低限の表現で伝えることです。その姿勢が伝わることで、メンバー同士の信頼感が生まれ、未完成のアイデアでも安心して共有できる雰囲気が醸成されます。

 また、「創造的な空気」をつくる上で、どんなに突飛なアイデアが出てきてもすぐに否定しないことも重要です。一見実現不可能に思える提案でも、それが後の議論のきっかけやブレイクスルーにつながることがあります。最初から正解を求めるのではなく、アイデアを一度受け止めてみる。その寛容さが自由な発想を促す土壌となります。発言のハードルが下がることで、普段は口に出しづらいアイデアも共有されやすくなり、チーム全体の創造性が引き出されていきます。

 もう一つ重要な点は、立場や役職によってアイデアの重みが偏らないよう配慮することです。特に上の立場にある人の意見は、それだけで無意識に「正解」と見なされがちです。そのため、あえて意見を後回しにしてもらったり、ファシリテーターが意図的に多様な声を拾ったりといった工夫も必要です。立場に関係なくアイデアがフラットに扱われることで、メンバー一人ひとりが発言しやすい環境が整い、より多角的な議論が生まれやすくなります。このような場づくりやファシリテーションによって心理的安全性が確保され、新しい発想や創造的な思考の連鎖が育まれるのです。

チームの「化学反応」を設計するデザイナーの役割

 では、そもそもなぜこうした「場づくり」が重要なのでしょうか? それは、新規事業の現場では「多様な視点のぶつかり合い」こそが創造の原動力となるからです。異なる専門性、業務経験、問題意識を持つメンバーが集まれば、最初は意見がかみ合わなかったり、すれ違ったりすることもあります。しかし、その「摩擦」からこそ新たな価値や可能性が生まれる、といっても過言ではないでしょう。

 スケッチやカスタマージャーニーといったビジュアルツールを共通の土台として、異なる立場の人たちが現実や理想を持ち寄って対話する。その中で、これまで見えていなかったヒントや突破口が浮かび上がってくる。これはまさに「化学反応」とも呼べる瞬間です。そしてそれは、一人の思考だけでは決してたどり着けない発見です。

 こうした化学反応を引き起こす場を設計できるのが、デザイナーの持つ力だと私は考えます。デザイナーは、チームの知を引き出し、混ぜ合わせ、かたちにする「場づくりの設計者」なのです。問いを立て、対話を生み、プロジェクトを前に進める──新規事業という不確実で複雑なチャレンジを、力強く推進していくメンバーとして、ぜひ皆さんのチームにも、デザイナーを加えてみてはいかがでしょうか。

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この記事の著者

門田 慎太郎(モンデン シンタロウ)

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