「司令官」から「オーケストレーター」へ。イノベーション4.0時代のリーダーシップ
栗原:ここまでシステムのデザインのプロセスを伺ってきましたが、これを実行するリーダーにはどのような資質が求められるのでしょうか。
山田:私はこれからのリーダーシップは、「司令官(Commander)型」から「オーケストレーター(Orchestrator)型」へと進化する必要があると考えています。
これからの20〜30年は、既存の社会システムが大きく作り変わる、いわば「ガラガラポン」の時代です。かつてのように正解が明確で、トップダウンで「これをやれ」と命令すれば済む時代ではありません。複雑性が増し、AIが「論理的な正解」を即座に出せるようになった今、人間に求められるのは「納得解」や「意味」を作り出す力です
栗原:オーケストレーター型リーダーシップとは、具体的にどのような振る舞いなのでしょうか。
山田:イメージとしては「韻律(リズム)を握り、即興演奏(ジャムセッション)を促す」バンドリーダーのような役割です。リーダーは、システムの「意図(To-beの方向性)」という大きなリズムはしっかりと提示します。しかし、それをどう演奏するか(How)は、多様なステークホルダーとの共創に委ねるのです。
自組織の利益だけを最大化するのではなく、社内外の境界を溶かし、異なる理念を持つ他者とも共鳴しながら、システム全体のインパクトを最大化する。これがオーケストレーター型の特徴です。
栗原:リーダー自身がすべての答えを持っていなくてもいい、ということでしょうか。
山田:そのとおりです。これはリーダーにとってある種の「福音」でもあります。「厄介な問題(Wicked Problems)」に対して、リーダーひとりで答えを出そうとするのは苦しいことですし、その必要もありません。問いをシステムに投げかけ、仲間と共に答えを見いだせばいい。
「アダプティブ・リーダーシップ(適応型リーダーシップ)」という概念にも通じますが、不確実な時代において、リーダーは全知全能の支配者ではなく、多様な声を調和させ、新しい音楽を紡ぎ出すファシリテーターであるべきなのです。
栗原:最後にビジネスリーダーたちに何かメッセージはありますか?
山田:下記の地図を見ていただくと、プロセスは「戦略思考の森」から始まり、「システム思考の山」を登り、「ビジョン思考の丘」で未来を思い、「デザイン思考の半島」で具体化して、最後にムーブメントの海へと出ていく旅になっています。システムのデザインは、複雑な世界を諦めずに、希望を持って変えていくための「知の道具」です。
私が取り組んでいる障害者就労のプロジェクトも、今日お話ししたシステムのデザインで、「ケア」と「イノベーション」を対立させず融合させる新しい世界線を描こうとしています。福祉の世界のイシューを「福祉のシステム」としてデザインするのではなく、別の韻律を持つ「イノベーションと融合させたシステム」として再構築することで、クリエイティブにイシューを解いていく。
これはシステムをデザインすることに自覚的になるからこそできる発想の飛躍であり、面白さです。多くのビジネスパーソンに、この道具を使って、自分たちの手で希望の未来をたぐり寄せてほしいと願っています。
栗原:本日はありがとうございました。具体的な実践事例やプロセスなどもぜひ取材させていただければと思います。
BIOTOPE 山田和雅氏の著書『戦略デザイナーが伝えたい、システムのデザイン』
