生成AIの導入は進みつつあるが、組織全体の成果につなげられている企業は多くない。法務と事業部門をつなぐ契約業務基盤サービスを提供するHubbleは、2026年9月30日にカンファレンス「Human×AI Transformation 2026」を開催。本稿では、キタムラ・ホールディングス 執行役員の門松信吾氏と、Hubble Co-Founder & CEOの早川晋平氏が登壇したセッション「個人のAI活用を、組織の変革へ ── 経営と現場を動かすAXの実践」をレポートする。モデレーターはHubble Co-Founder & CTOの藤井克也氏が務めた。
AI戦略はあえて決めない。変化し続けられる組織であれ
セッションの冒頭、モデレーターの藤井氏が会場に問いかけた。AIを社内に導入している企業はほぼ全員が手を挙げたが、組織で活用が進んでいると答えたのは半数ほどだった。
この難題に、門松氏は多様な事業を抱えるグループで取り組んでいる。キタムラ・ホールディングスは、1934年に高知で創業したキタムラ写真機店を源流とする持株会社だ。「カメラのキタムラ」、子ども写真館の「スタジオマリオ」、ネットプリントの「しまうまプリント」、スクール写真の「スナップスナップ」などの事業を展開しており、連結子会社は8社に上る。業態は店舗からオンライン、製造、法人向けまで幅広い。
「AI戦略として『これだ』というものが決まっているわけではない。ただ、進め方は決めている。これだけ進化が激しいので、変わり続けられる組織という能力をどう身につけるか。そこをベースに変革を設計している」(門松氏)
グループ共通で整えるのは、AIを使ってよい範囲などの環境整備にとどまる。それ以外は各社に任せているという。理由は2つある。ひとつは、ビジネスの変革に唯一の答えはないこと。答えがないなら分散させ、各社独自の挑戦の回数を増やすほうがよい。もうひとつはAIの進化の速さだ。親会社が施策を決めて配っても、半年もすれば古くなってしまう。写真業界はフィルムからデジタル、スマートフォンへと、技術による大変化を何度も乗り越えてきた。その経験もこの方針を支えている。
一方、早川氏はAX推進者の「発言力」に目を向ける。従業員140名ほどのHubbleでさえ、「この人が言うなら進めよう」という一種の政治力が働くという。組織のボトルネックを解消するAI活用は、AIの知識に加えて周囲との信頼関係がなければ進めにくい。「大企業の方々はもっと大変なんだろうと、正直に感じている」と早川氏は語った。
AI実装におけるトップダウンとボトムアップの使い分け
門松氏は、AI実装の進めるために、トップダウンとボトムアップを使い分けているという。確実に正解だといえる施策を強く進めたいときは、トップダウンが有効だ。とはいえ大企業には、「AIで本当に業績が変わるのか」と懐疑的な経営陣もいる。そこで門松氏は経営陣に自らハンズオンを行い、彼らの課題を目の前で一緒に解く。すると「なぜコストをかけるのか」という問いの向きが逆転するという。
「現場の人は、自分の作業が楽になるならAIツールを使いたいと手を挙げる。ところが上司からは『コストもかかるし、本当に効果は出るのか』と指摘される。その力学を起こさないよう、上から『使わない理由は何か』と言える組織状態をつくる。これはトップダウンでやるべきことだと思っている」(門松氏)
ボトムアップでは、子どものように熱量をもってAIで遊べる環境づくりが出発点になる。熱量のある人材を見つける最良の方法は「手挙げ」だと門松氏は言う。実際に、グループ内の複数社で「AIアンバサダー」を募り、組織内に「AIのことはあの人に聞いてみよう」という流れが生まれていった。
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