人に残る「揺らぎ」と、組織の文脈という資産
では、AIの浸透は何で測るべきか。早川氏の答えは明快だ。事業計画を達成できているか、である。AI時代のスタートアップには、見込み顧客にAIエージェントを回し続けて商談を温め、最小限の人数で急成長する企業もある。こうした仕組みは既存企業でも十分に実装できると早川氏は強調した。
門松氏も、成熟市場と見られがちな写真産業でこそ、AIエージェント前提の事業構造への転換が大きな成果を生むと見る。
人に残る仕事について、門松氏は線引きを示した。誰がやっても同じ結果であるべき仕事は、検証方法を定めたうえでAIに渡していく。逆に、人ごとの「揺らぎ」そのものに価値がある仕事は人が担う。たとえば「この人から買いたい」と指名される営業はその典型だろう。
早川氏が重要なインサイトとして挙げたのは、Anthropic CEOの発言だ。仮にモデルがこれ以上進化しなくても、現在の業務で引き出せているのはポテンシャルの5〜10%にすぎないという。「AIはどんどん賢くなるのに、世の中は変わらない。そんな世界が待っているのではないか。AIの進化を待つのではなく、今変えないと今後も変われない」と早川氏は危機感を示す。
鍵を握るのはデータだ。AIは確率的に答えるため、参照するデータを人間が整えなければならない。早川氏は、データを一元化する「SSOT(Single Source of Truth:信頼できる唯一の情報源)」の重要性を説く。早川氏によれば、SSOTで文脈までつながったAIを持つ企業は、事業計画の達成確率が4倍になるとの指摘もあるという。逆にデータが分散していれば、誤回答の確認に時間を取られ、生産性はかえって落ちるとされる。
門松氏はこれを受け、組織の「文脈」の蓄積に目を向ける。たとえば、契約書そのものより大事なのは交渉の経緯だ。何を譲れず、何なら譲れたのか。そこに会社らしさが埋まっている。こうした情報を蓄えてこそ、エージェントは自社らしい判断ができるようになる。
変革を広げるフォロワーシップの重要性
門松氏は、個人のAI活用が組織の生産性を下げる場面にも警鐘を鳴らす。10分でAIに資料を作らせ、本人はろくにレビューしない。その網羅的だが意思のない資料を、10人が会議で読まされる。個人は数時間を浮かせても、組織としては数十時間のマイナスだ。
こうした負の影響を防ぐには、新たに「AIエージェントマネジメント力」が必要になると門松氏は見る。従来のピープルマネジメントとは別物で、AIが動き続けられる環境を整え、ゴールを設定し、検証とフィードバックを回す力だ。早川氏も、資料や議事録、メールの作成は、AIを好きになるきっかけにはなるが最も生産性の低い活用だと見られている、と指摘。エージェントを整理して組織に広げる設計の重要性を説いた。
明日から何に取り組むべきか。早川氏は「特定のユースケースで、閉じた少人数で、売上につながるボトルネックに取り組むこと」と答えた。データを整え、過去に失注した顧客への再アプローチをAIに任せる。そうした小さな一歩でも、業績インパクトは出せるという。
門松氏は、組織変革の出発点は仲間づくりだと語る。一人で踊り出した人に追随者が現れ、やがて大きなムーブメントになる。そんな動画を引き合いに、フォロワーの存在の大きさを説いた。以下のメッセージとともに、セッションは締めくくられた。
「変革はリーダーシップで成し遂げるものと思われがちだが、大きな変化が組織の中でムーブメントになるには、フォロワーシップのほうが大事。新しい変化が来た時に、皆で『いいね、やってみようよ』と言える組織は変化に強い。リーダーはフォロワーを大事にして、組織の勢いをどうつくるかを考えるべき」(門松氏)
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-




