企業の創業期と成長期では“使う筋肉”が異なる
ベンチャー企業を含めて中小企業オーナーは、会社を創業したら永遠に自分が経営者であり、株主であり続けなくてはならないと考えている方が多いようですが、ここにも変革の余地があります。会社をつくる人と伸ばす人、成長させる人には、それぞれにまったく違う能力が求められます。創業期には豪腕であらねばならないが、成長期では理性的でなければならない。企業のすべてのステージで同じ人が、「すべて自分で」仕切り続けるのは至難であり、それができるオーナー経営者は本当に稀です。要は創業期と成長期では使う筋肉が違うのです。私はよく上場の準備をしている経営者に対して、上場するまではやっていいよ、とアドバイスしています。うまく経営者をバトンタッチしていくことで企業はステージを上げていくことできるのです。
なんとかIPOにこぎ着けたものの、業績を伸ばせず、赤字と黒字を繰り返して市場に見放された企業は山ほどあります。その結果、企業の評判が悪くなり、採用を行っても期待する人材を確保できずにさらなる衰退に向かってしまう。それではもったいない。
企業にはIPOの前に会社を変える大きな転換があり、上場後にも持続的な成長に向けた大きな転換が必要と考えます。例えば、上場後の大転換を達成したとしたら、その段階でTOBなどを活用して新たな株主構成と経営者に交代するなど、上手なバトンタッチの方法があることを、経営者はもっと知るべきです。
最近の例では、カカクコムの創業社長から社長職を委嘱されて同社をIPOに導いた穐田誉輝氏が、2012年からはクックパッドの社長に転身しました。これもクックパッドの創業社長が、上場後の企業成長には自分にはない能力を備えた人材が必要だと考えてのものでした。こうしてカカクコムもクックパッドも株主構成と経営者をうまく変更して企業を成長に導いたと言えます。
上場企業にも“見習い”が必要
今でもIPOを夢見る人はたくさんいますし、ユニークな技術やアイデア、ビジネスモデルがあればベンチャーキャピタルが投資してくれる環境も整っています。
しかし、私のIPO関連のセミナーに訪れる方の中には、上場希望と言いながら、事業計画書と損益計算書しか揃えていない経営者もやってきます。売上高と最終利益表のみという方もいました。ビジネスの基本的な“お作法”を身に付けないままにIPOを目指し、実際に勢いでこぎ着けてしまっているケースもあります。もちろん、IPOを目指す企業が増えるのは、日本経済の活性化には大きなプラスです。それこそが経済成長です。ただ一方でIPOとは、「縛りのある世界」への参入でもあります。企業統治や内部統制の体制を整えて世間に情報を開示し、株主に報いていかなければならない。
そんな縛りのある世界にあえて入るのは、資金調達が容易になる利点があるからこそです。株主から得る資金は、極論すれば返さなくてもよい資金なのです。それを理解した上で、投資家に責任を果たし続けるという自覚がどこまであるのかが問われるのです。
これは持論ですが、いきなり東証1部へのIPOは禁じるべきだと考えています。例えば社歴が10年以内ならばマザーズにしか上場できないこととし、最低でも3期は指定替えせず、情報開示や企業統治がきちんとできる仕組み整えてもらう。言わば上場企業のお作法を覚えてもらう研修期間のようなものです。
行儀作法も分からない者がいきなり1部というのはさすがに無理があります。ゴールド免許は、過去5年以内に事故や違反がないドライバーにしか交付されないのと同じように、様子見の期間が必要です。東京証券取引所も、こうした対応を考える必要があるのではないでしょうか。
本記事は、M&A Onlineに掲載された記事を再編集して掲載しております。
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