「指数関数的進化」はITに限らず、医療や生命などの進化・発達に波及する
こうした指数関数的進化は、健康や医療の分野にも影響を及ぼしている。DNAのシークエンシング、ゲノムの解析はもちろん、生命を計算するソフトウェアまで登場している。単にデータ収集の速度が高まったわけではなく、データを理解・分析し、シミュレーションし、モデル化する能力についても、指数関数的に飛躍的に進化してきた。そのおかげで、かつては健康であった状態には戻れないと診察された患者が再び健康を取り戻すなど、革新的なことが医療の世界でも起きるというわけだ。必然的に健康寿命も延びると予測される。
IT領域にかぎらず、ナノテクノロジーやソーラーパネルの開発においても、指数関数的に進化しており、2020年には3Dプリントも進化し、宅配便が不要になる可能性もある。たとえば、あるバンドのツアーにはデータしか送られず、そのデータをもとに楽器をつくるという事もあるかもしれない。少なくとも書籍や雑誌、映画等のコンテンツは物質的な配達を必要としなくなると考えられる。それでも、購入しやすさから宅配便のニーズは高まっており業績も伸びている。
デバイスの縮小化もますます急速に進み、血液細胞サイズのものも登場するという。体内のT細胞は細菌などを攻撃する役割を持つが、がん細胞を攻撃するデバイスを体内に投入し排除することができるようになるかもしれない。そうした免疫システムを拡張することによって脳腫瘍や心臓発作などの疾病と戦い、結果的に健康寿命が伸びる可能性が高まるというわけだ。
加えてAR、VRというような拡張現実の技術においても、2030年にもなれば、完全に別の場所にきたかのような、ワープしたかのような体験ができるようになるだろう。
脳機能だけでなく身体機能も外部と連携することで飛躍的に拡張する
様々な技術の進化によって大脳新皮質の“外部化”が進み、新しい思考・経験が可能になる。同様に私たちのカラダも拡張できるようになるとカーツワイル氏は語る。
脳を外部化することで検索、自然言語処理ができるだけでなく、思考そのものをクラウドの第二の脳へと移し、拡張すると考えられる。さらに、思考のヒエラルキーが上位になればなるほど、非常に複雑なことも理解でき、認識できるようになる。
第一の脳である大脳新皮質の発達が私たちを人間らしくさせてきたように、さらに外部の非生物学的な“第二の脳”が進化することによって、正確にバックアップし、非生物学的な判断を行うところから、よりスマートに、よりユーモラスに、より芸術を楽しみ、愛情や喜びをより上手く表現できるようになるだろう。
いま、私たちが生きているこの時期を「ブリッジ1」とすれば、「ブリッジ2」はバイオロジーに関わるもの。現在、研究は成熟期にあり、まもなくその成果の享受できるといわれている。そして、「ブリッジ3」は免疫システムの拡張、「第4のブリッジ」はついに第二の脳が完成し、記憶をバックアップとして保管することができる状況といえる。いわゆるティッピングポイントは12年後。その後も指数関数的に寿命が伸びることが想像される。
「あと10~15年生き延びれば、その世界を実感し、さらにその先には不死身というものを体感できるかもしれない」と語り、セッションの結びとした。