レイ・カーツワイル氏が語る、脳の「パターン認識」と「思考のヒエラルキー」、そして「外部拡張性」
いよいよ世界を代表する発明家、思想家、未来科学者の一人であり、「シンギュラリティ(技術的特異点)」の提唱でも知られるレイ・カーツワイル氏が登場。2008年に開設されたシンギュラリティ大学の共同創立者、学長であるほか、Googleのエンジニリングディレクターとして自然言語理解の開発チームを率い、自らも人工知能の開発を進めている。
そんなカーツワイル博士は50年以上に亘り、人間の脳について考え続けてきた。脳はどのように機能するのか、そしてそれを再現するにはどうしたらいいのか。50年前に書いた論文では、脳は多数のモジュールに分かれて情報のパターンを認識・記憶すること、そのパターンを自ら構築した“思考のヒエラルキー”で実行することが紹介されている。その50年前の考察を起点に、さらに深く掘り下げて2013年に書かれたのが著書『How to Create a Mind: The Secret of Human Thought Revealed』(思考の創り方)である。
そこでは、脳のモジュールが3億個存在すること、アルゴリズムの説明、さらにモデルを使ったヒエラルキーがどのように思考に影響するか、そしてどのようにして人工知能として再現するかが記されている。それをGoogleのラリー・ページ氏に送ったところ、Googleに誘われて現在に至るという。
人間は200万年前に始まった大脳新皮質の発達によって様々な知恵を手に入れた。大脳新皮質は、脳の命令系統の頂点に立ち、言語や音楽、科学などを理解する。脳においては、進化の過程で少しずつ頭蓋骨を大きくさせてきたが、これからの「ヒトの脳の拡張」は外部化、つまりクラウドによって進化させていこうと考えているという。
30年前にカーツワイル氏は「収穫加速の法則」を提唱している。つまり、情報技術においては直線的ではなく、指数関数的に拡大するというわけだ。直線的であれば1ずつ増えて30段階で30となるが、指数関数的成長となれば1、2、4となり、30段階では10億、100億と増えていく。かの有名な「ムーアの法則」ではコンピュータの性能は指数関数的に増加し、いつか集積できないほど小さくなったときに止まるとしているが、カーツワイル氏は「コンピュータの処理能力という基準に一般化すれば、ムーアの法則は一部に過ぎない」という。
事実、その証明として1950年には真空管式が集積不可となり、トランジスタが不要になったチップが登場し、さらにこれ以上の縮小・集積はできないというところまで来た。つまり、第6のパラダイムが間もなく起きつつあるというわけである。
冷戦、大恐慌、2008年のリーマンショックを経てもなお、これだけの進化が実現してきた。そして、年々コストは安くなり、前年と比べるとそのコストが非常に下がっていることがわかるだろう。つまり、2000年前後ではコストがネックとなって実現できなかったソーシャルメディアが、2004年に構築できたのはその“デフレ”があったおかげともいえるわけだ。
カーツワイル氏はそうした発想から、検索エンジンが1990年代後半に流行るということを80年代から予測していた。当時まだ2000人規模の科学者がつながっていただけのネットワークが爆発的に広がることの予測であり、それだけのコンピュータの発達があったからだ。裏を返せば、それらをサポートするコンピュータの発達からその影響を受けて、何が生まれるか一部ながら予測したというわけだ。つまり、一見突然登場したかのように見えたインターネットも、指数関数的に進化を遂げる情報科学の歩みの中では、その時に必然的に現れる事象だったわけだ。